約 514,054 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2354.html
キズナのキセキ ACT0-3「アイスドール」 ◆ 右の武装脚を踏み込み、ほんの少しだけ身体を宙に浮かせる。 間髪入れずに、背部の増設バーニアを噴射。 地を這うように滑空し、猛スピードで対戦相手に肉薄する。 「くそっ!」 小さなつぶやきと同時、対戦相手のジルダリア型のハンドガン「ポーレンホーミング」から、弾丸がばらまかれてくる。 それを錐揉みしながら回避、逆にこちらも機関銃を構え、撃った。 ジルダリアは防御の姿勢。 数発着弾。花びらを模した装甲に阻まれ、ダメージにはほど遠い。 だが、足は止まった。 間合いを取ろうとしていたピンクのジルダリア型は、その場で相手を待ち受けざるを得なくなった。 両腕にマウントされた剣「モルートブレイド」を構える。 そこに白亜の神姫が飛び込んできた。 背後から伸びるサブアームを前方でクロスし、そ のまま体当たりしてくる。 「くうっ!」 たまらず声を上げたのはジルダリア。 力任せの体当たりを防御するも、弾き飛ばされる。なんとか空中で姿勢を制御した。 背面に取り付けられたリング状の武装は、花びらを模した武装が取り付けられており、推進器の役割も持つ。 その「フローラル・リング」はジルダリアの代名詞とも言える武装だ。 姿勢を取り戻したジルダリア型だったが、しかしこのタイミングは、迫る白亜の神姫にとって得意のパターン。 さらに踏み込んできた白い神姫は、サブアームを振り抜いた。 鋭い指を揃え、突いてくる。 この抜き手は狙いを外さない。 反射的に身をよじったジルダリアの身体をかすめ、背後のフローラルリングを打ち砕いた。 「しまった……!」 ジルダリア型の驚きを気にも留めず、白い神姫は間髪入れずに、逆の副腕で抜き手を放つ。 狙いは胸部。その奥のCSC。 あやまたず放たれた抜き手は、無慈悲にもジルダリア型の胸を貫いていた。 勝利したのは、白いストラーフ型。 その名を、ジャッジAIが画面に表示する。 『WINNER ミスティ』 ◆ 「いやー、まいったまいった」 頭を掻きながら筐体から離れた男が言う。 先ほどの、紅とピンク色にリペイントされたジルダリア型のマスター・花村耕太郎である。 彼の神姫・ローズマリーも、今は彼の肩の上でうなだれていた。 「今日はいいところまで行ったのに……」 ここのところ、ミスティとの対戦は連敗である。彼女は急速に力を付けてきていた。 「強くなったなぁ、久住ちゃん」 「いえ……わたしなんてまだまだ……」 セミロングの髪を上げ、花村を見る少女は、まだ中学生である。 控えめな口調で謙虚な言葉を口にする。 『七星』の一人を破ったというのに、久住菜々子は笑わない。むしろ、せっぱ詰まっている様子さえ見て取れる。 実際、菜々子はこの対戦に満足してはいなかった。 ローズマリーはノーマルのジルダリア型だ。各部の調整と細かなメンテナンスでポテンシャルを引き出し、知略戦略で戦う。 そのバトルスタイルについては、菜々子は大いに花村を認め、参考にもしていた。 菜々子はまだ中学生で、ミスティを満足にカスタムしてあげられない。わずかに、強襲用の背面ブースターを追加したのみだ。 だから、ノーマルでも強い花村は、今菜々子が目指すべき神姫マスターと言える。 だが、実力があるかどうかは話が別だ。 花村も『七星』の一人ではあるが、まだ二つ名もなく、他のメンバーに比べると実力は劣っている。 カスタムを施された神姫たちがひしめく、他の『七星』たちに勝つためには、現状で満足しているわけには行かない。 もちろん、この時の菜々子は、後に花村たちが『薔薇の刺』の異名を取るなどとは知る由もなかった。 とにかく、菜々子はバトルロンドで強くなることに必死だった。 それには理由がある。 「菜々子、絶好調じゃない」 「あおいお姉さま」 菜々子はそこでようやく、ほっとしたように微笑んだ。 『七星』一人・桐島あおい。 彼女の側に居続けるために。 彼女のパートナーであり続けるために。 菜々子はどうしても強くならなければならなかった。 ◆ 久住菜々子が想像していた以上に、『ポーラスター』における桐島あおいの人気は絶大なものだった。 ゲームセンター『ポーラスター』の神姫マスターの間で、『七星』のメンバーであれば、それだけで羨望の的だ。 彼らは『ポーラスター』に集う神姫マスターの代表である。バトルの実力ももちろんだが、それぞれのやり方で『ポーラスター』の対戦レベルの向上を図っている。 たとえば花村は、ノーマルあるいは公式装備にこだわるマスターたちのまとめ役である。彼を中心に研究グループができ、日夜ノーマル装備の可能性を探っている、という具合だ。 桐島あおいは、バトル初心者を見つけては声をかけ、バトルの講習を行い、対戦の面白さを知ってもらう活動を行っている。 そして、ゲームセンターへの定着をはかり、仲間を増やしていこう、という魂胆だ。 菜々子はあおいの魂胆にまんまとはまってしまったわけだ。 だが、その魂胆にはまったのは菜々子一人だけではない。まだ初級者に分類されるマスターたちの半分以上が、あおいの受講生だと言うから驚きである。 楽しく優しくレクチャーしてくれるあおい先生が、人気がないはずがない。 受講生たちはほとんどが桐島あおいのファンだ。特に女の子たちは、あおいの取り巻きとなっている。 もちろん、彼女の人気は女子だけに留まらない。 あの美貌、あの気立てのよさ、である。あおいとお近付きになりたいと思う男性マスターは大勢いた。 そんなわけだから、ゲーセンにいるときのあおいは、常に人に囲まれていると言っても過言ではない。 つい先日まで、あおいがその輪から離れることはなかった。 そう、久住菜々子と出会うまでは。 菜々子が『ポーラスター』に現れて以来、あおいは菜々子との時間を優先するようになった。 対戦していないときは、もっぱら菜々子の側にいる。 バトルロンドでは、ツー・オン・ツーのタッグバトルでコンビを組んでくれるし、対戦を希望すれば必ず相手をしてくれる。私的な練習にも、まめに付き合ってくれる。 しかも、タッグバトルのパートナーは、『七星』のメンバー以外では、菜々子とだけしか組まなくなった。 菜々子をひいきする理由をあおいに問いただしても、笑ってはぐらかされる。 当然、あおいの取り巻きをしている少女たちは面白くない。 彼女たちの矛先は、自然、菜々子に向けられた。 菜々子に対する「特別扱い」をやっかむ陰口は毎日のことだった。 また、ことあるごとに……いや、何もなくても、あおいの取り巻きたちは菜々子にしょっちゅう難癖を付ける。直接不満をぶつけに来る。 「いい気にならないで! あおいお姉さまはあなたのものじゃないのよ!?」 「……あなたたちのものでもないでしょう」 「みんなのものよ!」 「……お姉さまは、お姉さまのものだと思うけど」 「まあっ、生意気に言い返すつもり!? だいたい、あんたなんか、お姉さまのタッグパートナーに不釣り合いなのよ!」 「じゃあ、誰だったら、お姉さまと釣り合うの?」 そう言われると、取り巻きたちは声を詰まらせざるを得ない。 『七星』や上級者の常連ならともかく、初級者に毛が生えた程度の取り巻きマスターたちでは、タッグマッチでルミナスの足を引っ張るのがオチだ。 そう言う意味では、今一番の成長株と目される菜々子は、あおいのパートナー候補になりうる。 また、それなりの美貌がなければ、あの桐島あおいの隣に並んでも見劣りしてしまう。 本人が考えたことはないが、その点でも、菜々子は及第点をクリアしていると言えよう。 だからといって、やっかみの声が静まることはない。 菜々子は表立って反論するようなことはしない。そんなことをすれば、火に油を注ぐだけだとわかっている。 では、どうするか。 実力で黙らせる。 バトルの実力で、お姉さまの側にいるのにふさわしいことを証明してみせる。 『七星』なれるほど強くなれば、きっと誰もが、自分をあおいお姉さまのパートナーとして認めざるを得ないだろう。 だから、菜々子は最短距離で強くなろうとした。 その結果、彼女のバトルスタイルは、相手の弱点を容赦なく突き、勝ちばかりを求めるものになっていた。 だが、そんな菜々子のスタイルに、当のあおいお姉さまは難色を示す。 あおいが菜々子に求めるバトルスタイルは、勝ちばかりを意識したものではない。 それは「魅せる戦い」だとあおいは言う。 しかし、菜々子にはその意味が、よく分からない。 ◆ 「久住ちゃんも強くなったよな。そう思わないか、お姉さま?」 あおいと花村は並んで、観戦用の大型ディスプレイを見上げていた。 ディスプレイには、ミスティの戦いぶりが映し出されている。 現在、三連勝の表示。 「……まだまだね」 「手厳しいな。君の妹分だってのに」 「自分の身内に対しては、容赦しない主義なの」 「それは久住ちゃんがかわいそうだ……また勝つぜ」 その言葉とほぼ同時、ミスティは必殺の抜き手を放ち、相手神姫を撃破した。 連勝表示が一つ増え、四を示す。 「ほら。もう、常連の中でも頭一つ抜きんでてる感じだ。相手になるのは『七星』ぐらいじゃないか?」 「そうかもね」 「……だから、みんなに提案がある。俺は久住ちゃんを『七星』に推薦したい」 「え?」 あおいは花村を見た。 そして、その場にいた、『ポーラスター』の『七星』のメンバーたちも。 その時点での『七星』のメンバーは、花村とあおいを含めて六人だった。 「今日、招集をかけたのはそれか、花村」 「そうだよ」 武士型のマスターである『七星』メンバーの言葉に、花村は頷いた。 『七星』のメンバーに加入できるか否かは、メンバーの合議によって決まる。 といっても、堅苦しいものではない。誰かが推薦して、「いいんじゃない?」といった感じで決まることがほとんどだ。 「『七星』は今六人。久住ちゃんが加われば、人数的にもちょうどいい。 それに、彼女の向上心は、他のプレイヤーたちにもいい刺激になるんじゃないかな」 「なるほど」 「確かに」 「異議なし」 他のメンバーも、花村の意見に頷いている。 確かに、最近の菜々子とミスティの成長には、目を見張るものがある。 あおいの取り巻きたちと比べても、あきらかに一線を画した実力だ。あおいのパートナーを目指すマスターは他にもいるが、実力的にも相性的にも、菜々子に匹敵する者はいない。 他の『七星』に比べれば、まだ見劣りする実力も、すぐに追いつくだろう。 そして、菜々子自身、『七星』になることを望んでいる。 反対する理由は何もないように思えた。 だが。 「わたしは反対」 そう言ったのが、当のあおいであることに、花村は驚きを隠せない。 「どうして? 桐島ちゃんが一番喜んで賛成すると思っていたのに」 「まだ早いわ」 「そうは思わない。彼女は十分に強いじゃないか」 「確かに強くなった……でも、足りないものがあるのよ」 「足りないもの……?」 「あの子はまだ、勝ち負けしか見えていない。強いだけじゃ、ダメなの」 ミッションモードで乱入待ちをしている菜々子を見る。 バトル中の彼女は、いつも真剣な表情でディスプレイを見つめている。何か思い詰めたような様子さえある。 あおいは小さくため息をつき、菜々子の向かい側へと歩み寄る。 「菜々子」 「お姉さま」 「次、対戦、いい?」 「どうぞ……真剣勝負でお願いします」 「わかったわ」 あおいは鮮やかな笑みを見せて、向かいのシートに座った。 肩にいる自分の神姫を、アクセスポッドに寄せる。 「行くわよ、ルミナス」 「はい、マスター」 その後、ものの三分とかからず、ルミナスはミスティを撃破した。 菜々子はいまだに、本気のあおいに一度も勝てなかった。 ◆ 「だから、ただ勝てばいいってものじゃないのよ。もっと楽しまないと」 「それがよくわかりません。勝つこと、イコール、楽しいことじゃないんですか?」 「勝つだけが、バトルロンドの目的じゃないわ」 対戦後、自動販売機のあるコーナーで、冷たい飲み物に口を付けながら、二人は話していた。 幾度となくかわされた会話であるが、お互いの意見は平行線である。 あおいは、武装神姫のバトルには、勝敗以上の何かがあると思っている。 その「何か」を説明するのがなかなか難しい。 たとえば、自分の力を出し切ったときの充足感とか、自分の戦術が見事に当たった瞬間の気分とか、自分と神姫がまるで以心伝心のように意志を伝えあったときとか、自分の成長を感じられたときの嬉しさとか、そういったものだ。 それを感じることこそ、武装神姫の醍醐味、とあおいは思っている。勝利はその延長上にあるものにすぎない。 それを菜々子にも分かってもらいたい。 だが、我が妹は、そのことをなかなか分かってくれない。彼女は勝利を第一優先にしている。 対戦において勝利第一主義が悪なわけではない。ただ、あおいの主義と合わないだけだ。 だからこそ、菜々子の説得が難しい。 あおいはため息をついた。 「だから『アイスドール』なんてあだ名されるのよ」 「アイスドール?」 「あなたの異名。氷のように表情を変えずに、容赦なく弱点を攻撃する。まるで感情のない人形のように。だから『アイスドール』」 二つ名は、尊敬の意味を込めてつけられる場合が多い。 だが、菜々子のそれは、皮肉が込められている。そんな戦い方で楽しいのか、と。 また、ゲーセンでの菜々子は、あおいの側以外では、あまり表情を変えない。それは先日の悲しい出来事に起因しているのだが、知らない人の方が多いのだ。『アイスドール』の二つ名は、そんな普段の様子も揶揄されている。 しかし、菜々子はのんきにコメントした。 「へえ……ちょっとかっこいい、ですね」 そう言って小首を傾げた菜々子はとても可愛い。 あおいはがっくりと肩を落とした。我が妹は、二つ名の裏の意味にまったく気がついていないようだ。 あおいは頭に手を当てて、悩む。 どうすれば菜々子に、自分の考えを分かってもらえるのだろう? ◆ マスターたちの悩みをよそに、ミスティとルミナスはのんきに話をしている。 神姫である彼女たちも、マスター同様、すこぶる仲がよい。 お互いのマスターの肩の上で、マスターたちの話の邪魔をしないように、極長調波の音声で会話をしていた。 「まあ、わたしは『アイスドール』のままでもいいんですけどね。勝てているし」 「そうねぇ。わたしたちと肩を並べるために、まずは勝ちに行くっていう菜々子さんの考えも一理あるわよねぇ」 ルミナスはアーンヴァル型のカスタムタイプである。 本来、アーンヴァルは長距離射撃を得意としているが、マスターであるあおいの趣味で、中距離から近接格闘戦ができるような装備にカスタムされた。 背面の大型ブースターを、小回りの利くバーニアに変更。武装も、ロングレンジライフルを廃し、中距離向けのビームライフルなどに変えている。 コンセプトは最近発表されたアーンヴァルmk2に近い。 ルミナスの戦い方は「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を実現したようなスタイルだ。 最高速度の加速を捨て、機動力重視の推進を手にしたルミナスは、あおいの指示のもと、飛行機のアクロバットさながらの機動を見せる。 そして、急加速による接敵からの近距離戦に移行する動きは鋭い。 こうした機動を緩急つけて行うことで、ルミナスはあたかも空中で舞っているように見えるのだ。 その空中の舞を駆使した戦いぶりは、美しく、そして強い。 あおいとルミナスは、その戦い方から、『月光の舞い手(ムーンライト・シルフィー)』と呼ばれていた。 「わたしたちの戦いぶりと比べると、あおいさんとルミナスの戦い方は真逆ですけど」 「だからこそ、タッグバトルで噛み合うってのはあるわよね」 「わたしもそう思います……あおいさんは、何が気に入らないんでしょう?」 「ミスティに、わたしたちと同じような戦い方をして欲しいんじゃないかな」 「それは無理でしょう……うちのマスターの性格からして」 二人の神姫は、人には聞こえない声で、笑った。 ◆ 「今の、ルミナスとミスティのタッグは、こんな感じね」 あおいは、ルミナスを示す右の指をくるくると回して螺旋を描き、その螺旋の中心を貫くように、ミスティを示す左の指を一直線に動かした。 「コイル……ですか?」 「え? ああ……そうね、電磁石みたいね」 「勝ちがいくらでもくっついてきそうです」 我ながら、つまらないジョーク。 でも、電磁石で何の問題があるのかわからない。 華麗に舞うルミナスと、容赦なく敵を倒すミスティ。 そのミスマッチこそ、このペアの強さだとも思う。 だが、あおいはまた両手の人差し指を動かした。 「わたしが望むタッグバトルは、こんな感じ」 両手の指が、今度は互い違いの螺旋を描く。時に近づき、時に離れ、模様のような立体図形が宙に描き出された。 「二重螺旋……?」 「ああ、なるほど……遺伝子に似ているわね。 そう、二人が一緒に魅せる戦いをすれば、試合はきっと、勝ち以上のものに進化するでしょうね」 そう言って、あおいはにっこりと笑った。 「息のあったパートナー同士のタッグバトルは、すごいわよ? それはバトルなのに、まるでダンスを踊っているように見える……とても美しいの」 「……美しい?」 「そうよ」 自信たっぷりに頷いたあおいに、菜々子は首を傾げる。 菜々子は、そんなバトルをしたことがなかったし、名勝負と語り継がれるような試合を見たこともなかった。 戦闘行動は、その時どきの状況によって刻々と変化する。 それなのに、パートナーと息を合わせて戦うなんて、できるだろうか。 もちろん、菜々子とあおいのコンビは、ここ『ポーラスター』でもトップクラスの実力である。バトルの時のルミナスとミスティは息が合っていると思う。 これ以上、何が足りないというのだろうか。 「きっと、菜々子の戦い方には、個性が足りないんだと思う」 「個性?」 「そう。ミスティは、ストラーフ型の戦い方としてはすごく真っ当だけど、それは誰もがどこかで見たことのあるストラーフに過ぎないわ。サプライズが何もない」 「……でも、わたしは、お姉さまのように華麗な動きを指示できません」 困ったように言う菜々子に、あおいは苦笑した。 「わたしの真似をする必要はないわ。まずは、あなたらしい戦い方を模索してご覧なさい」 「わたしらしい……戦い方……」 それこそが今の戦い方なのではないかと思うが、違うのだろうか。 おそらく違うのだろう。ステレオタイプなストラーフの戦い方は、誰にでもできる、ということなのだ。 だけど、菜々子らしい戦い方、というのは、なんなのだろう? 「それができるようになったら、菜々子を『七星』に推薦するわ」 「えっ……」 「どう? もう少し頑張ってみる?」 「はい!」 微笑むお姉さまに、元気に返事をした。 他でもないお姉さまが『七星』に推薦してくれるというのだ。 そうなれば、誰に恥じることなく、あおいお姉さまのパートナーと名乗ることができる。 菜々子は俄然やる気になった。 その日から、菜々子とミスティの、オリジナルな戦い方を模索する日々が始まった。 □ 「ひとつ疑問があるんですが……」 「何かな?」 「桐島あおいは、なんで久住さんにこだわったんでしょう?」 ここまでの話を聞いて、俺が一番気になったのはそこだった。 ただ仲がいい、とか、お気に入り、と言うレベルを超えている気がする。 長い付き合いの他の常連たちを差し置いても、菜々子さんを特別にかわいがる理由が、何かあるのではないか。 花村さんは、少し考えてから、言った。 「……たぶん、桐島ちゃんは、久住ちゃんに自分を重ねていたんじゃないかな」 「……?」 「桐島ちゃんも、幼い頃に両親を亡くして……祖父母の元で暮らしてるって聞いたことがある。 あの頃の、打ちひしがれた久住ちゃんを見て、桐島ちゃんは放っておけなかったんだと思うよ」 なるほど、と俺は頷いた。 桐島あおいは、自らの境遇を菜々子さんに重ねていた。だからこそ、献身的に菜々子さんを支えていた。 菜々子さんも、桐島あおいの事情をいつか知ることになったのだろう。 武装神姫だけでなく、身の上でも、二人は共通の思いを抱いていたのだ。 二人が急速に惹かれ合い、寄り添ったのにも納得がいく。 それにしても。 花村さんが話してくれる菜々子さんの過去は、実に興味深い。 『ポーラスター』で過ごした菜々子さんの様子は、今の『エトランゼ』の戦闘スタイルが形作られていく過程だ。 スタンダードなストラーフ型のバトルが、いかにしてあのトリッキーかつパワフルなミスティのバトルへと変化するのか? 俺は期待を込めつつ、花村さんの声にまた耳を傾けた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/42.html
入手条件 性格 声優 デザイナー 機体解説 素体性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 固有レールアクション入手先 固有武装装備時ステータス イベント EXカラー髪 瞳 入手条件 F3制覇 性格 現代っ子的な性格。バトロンの丁寧口調こそなくなったものの、根本的な「背伸びをする子供」という特徴は残っている。 「~じゃないんだからね!」が口癖だが、その文意や性格から一概にツンデレという訳でもない。 むしろ言動には「背伸びをする子供」という部分が前面に押し出されているため、 あまりツンデレという印象を受けるシーンは少ない。 少々ドジで焼き餅焼きなところはあるが、優しく思いやりがある一面も見る事が出来る。 またサンタ型という設定のためか、年下(?)の子供に対してお姉さんぶることも。 + 戦闘前セリフ一例・ネタバレ要素有り。 「可愛い少年相手でも、お姉さんは手加減なんてしないわよー! 全力でかかってきなさいっ!!」(vs柴田勝) 「ハウリン型もマオチャオ型も、まぁまぁ可愛いけど 一番魅力のある神姫は、アレだよ、そのー、ねぇ ちょっとマスター、最後まで言わせないで!!」(vs犬童太) 声優 釘宮理恵(鋼の錬金術師:アルフォンス・エルリック、ハヤテのごとく!:三千院ナギ、他。「ツンデレの女王」の異名を持つ) デザイナー GOLI(beatmania IIDX) 機体解説 名称:サンタ型MMSツガル(MMS Type Santa Claus TSUGARU) メーカー 素体:Studio Roots 武装:Studio Roots 型番:SRX03 フィギュア発売:2006年12月7日(武装神姫第3弾EXウェポンセット) 主な武装:フォービドブレード("フォービドン"ではないので注意。レインディアバスター時はそりのレール部になる、というよりはレール部分を外して刀代わりに使っているという方が妥当か。バトマスの分類ではダブルブレード) ホーンスナイパーライフル(レインディアバスターでは操縦桿になる。) ハイパーEML(EMLはエレクトロ・マグネティック・ランチャーの意味。ツガル武装形態でのリアユニットの左右に配置されている逆三角形のあれ。なぜかバトマスでは未登場) レインディアバスター(武装を変形合体させたそり。ツガルの武装のほぼすべてを使用した、武装神姫史上初の「変形合体して別形態となる」武装である) サンタクロースをモチーフとし、赤・白・緑のクリスマスカラーを効果的に用いたカラーリングが印象的なStudio Roots社の開発した神姫。 バリエーションとして、青を基調としたクールなカラーリングの「Blue X'masバージョン」も存在する。 2丁のスナイパーライフルを駆使した長距離射撃や、高機動力とロングブレードを組み合わせた一撃離脱戦法を得意とし、 身にまとった武装はトナカイのそりを思わせる高速移動形態「レインディアバスター」へと変形する。 基本的に出自など固有のバックボーン設定を持たないのが神姫だが、例外的に彼女には担当デザイナーの裏設定として「モデルになった人物」が存在している。 + ... その「モデルになった人物」はある理由で仮死状態に陥っており、彼女を愛していた若き科学者「D」が寂しさを紛らわすため彼女の精神構造を元にAIを作成、彼女に似せた神姫のボディに搭載したのが、武装神姫でのツガルである、というもの。 担当デザイナーの出身元である音ゲーをある程度知る人であれば、その姿、名前、そしてデザイナーからモデルとなった人物や若き科学者の正体を推し量ることができるだろう。 ただし、上記はあくまでも「デザイナーによる裏設定」であり、KONAMI側が公式に明言したり設定として取り入れたものではない点には注意。 AIの性格はノリのいい現代っ子気質で、少し子供っぽく扱いづらい一面も。 マスターの年齢によってはジェネレーションギャップに悩まされる可能性も。 時速30㎞で何かと話題になる胸だが、フィギュアでは元々胸どころか素体がなかった(コアユニット+武装のみだった)。ゲーム中の素体は「Blue X'masバージョン」の際に設定されたもので、ロード画面のTIPSでの絵で素体が白一色なのはそのためである。(あの絵が描かれたよりも後に今の素体カラーになった為。PC版とも微妙にデザインが異なる) 素体性能 LP ATK DEF DEX SPD 450 40 40 4 6 プラス補正アビリティ Dブレード+1 ライフル+1 マイナス補正アビリティ 投擲-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力 スピード ガードブレイクダメージ 固有レールアクション入手先 固有武装装備時ステータス + プレゼント・フォー・ユー! LP 5982 SPD 65 DEX 63 CHA 308 DEF 621 火器 0% 光学 0% COST 497 アビリティ 防御力+2 溜め時間短縮+1 ジャストガード-1 武器エネルギー回復+1 ブースト性能+3 ジャンプ性能+2 二段ジャンプ+1 急上昇、急降下+1 ロック範囲-1 スピード+1 DEX+1 CHA+1 LP+3 Dブレード+1 投擲-1 ライフル+1 ビット+1 空いている武装:武器2つ、アーム、シューズ、シールド、アクセサリー2つ + プレゼント・フォー・ユー!EX LP 9874 SPD 107 DEX 103 CHA 498 DEF 1028 火器 0% 光学 0% COST 886 アビリティ 防御力+3 ジャストガード-2 武器エネルギー回復+1 ブースト性能+5 ジャンプ性能+2 二段ジャンプ+1 急上昇、急降下+1 ロック範囲-1 スピード+2 空中ターン+1 DEX+1 CHA+2 LP+4 Dブレード+1 投擲-1 ライフル+1 ビット+1 空いている武装:武器2つ、アーム、シューズ、シールド、アクセサリー2つ イベント + ネタバレ 発生条件 イベント名 備考 Love2 自宅 サンタクロース Love5 ゲームセンター バトル後 缶コーヒー Love7 ゲームセンター 二人のマスクマン バトル有り(vsヘルマスク メドゥーサ) Love10 ショップ ガキンチョとお父さん Love12 ゲームセンター Lマスクとのバトル バトル有り(vsライオンマスク ディアナ)/トリアイナ・ハスタ入荷の可能性あり Love15 ゲームセンター 父ちゃんの正体・・・ Love17 マップ もう一つの正義 Love19 自宅 作戦会議 Love20 ゲームセンター 乱入! 専用RA解禁 Love22 マップ 難しい年頃 Love23 ゲームセンター 神姫バトル指南 Love25 自宅 お買い物にお付き合い Love27 ゲームセンター 新人のヒーロー Love29 ゲームセンター 正義の味方! ライオンマスクと組んでのタッグバトル(vsヘルマスク メドゥーサ+啓太 キウイ) Love30 ショップ サンタクロース! 専用RA解禁 EXカラー 色は編集者からみた色で、人によって見え方は異なります。 髪 A ライムグリーン(デフォルト) B 赤紫 C 水色 瞳 A.赤(デフォルト) B.鈍金色 C.水色
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1435.html
{どうでもいい話し合いと、真面目な話し合い} アンジェラスの視点 ご主人様は愛車のスカイラインを運転してアンダーグラウンドに向かっています。 私はご主人様の右肩に座っているのですが…。 ちょっと車の中は居た堪れない空気になっているのですよ。 何故かと言いますと。 「ねぇーご主人様。今日はいったいどのようなご用件ですか?」 「………」 ご主人様は運転に集中しているのか、さっきから私が声を掛けてもうんともすんとも答えてくれないのです。 ズーッと無言でズーッとシカトです。 別に機嫌が悪いとかじゃないと思うのですが…何かこぉ~、考え事をしているような感じですかね。 今はそれだけの事しか考えられないみたいなぁ。 ご主人様がこんな感じになってしまった原因は、あのアンダーグラウンドの住人、ご主人様が言う通称オヤッさんその人である。 帰宅したご主人様は私とまた煙草の事で口論してる途中、オヤッさんから電話がきて、ご主人様が電話に出てのですが。 電話している時間が経つごとにご主人様の顔は厳しくなり真剣な表情に変わりました。 そして電話が終わった後の私に向けられた言葉が一言、『行くぞ、アンジェラス』です。 電話の内容も何も言わずに家を出るご主人様に私は『はい!』としか言えず、付いて来ましたのが今の状況に繋がる訳です。 車を走らせるご主人様は無言で前を見続ける。 私はそんなご主人様の顔を見る事しか出来なかった。 そうこうしている内にアンダーグラウンドの町に入りご主人様は駐車場に入る。 駐車場の適当な場所で車を止めて車から出る。 その時でした。 ご主人様が低い声で私にこう言いました。 「これから起きる事は何事にも驚くな。後、俺の命令に絶対に従えよ。解ったな?」 「は!?はい!」 その時のご主人様の顔は怖かったです。 いつも苦笑いしたり、ニヤつきながら私を褒めてくれるご主人様じゃなかった…。 まるで別人のようでした。 顔はご主人様でも違うご主人様みたいな…。 冷酷で人間の感情が無いよな感じ。 「解ったのならいい。今から一言も喋るな。黙って俺について来い」 無言のまま私は頷いた。 するとご主人様は私を一瞥してから駐車場から出た。 アンダーグラウンドを歩き数分。 神姫センターが見てきました。 今日はここに行くのでしょうか? 確認したいのですけれど、ご主人様は私に『一言も喋るな』と言ったので喋る事が出来ません。 …いったいご主人様はどうなちゃったでしょ。 あ、神姫センターを横切りました。 今日はここに用は無いみたいです。 じゃあ何処に行くんだろう。 そして更に数十分が経ちました。 ご主人様は一つのバーに入りました。 お酒を飲む場所とデータでは知っていますが…。 私が実際に見たバーとデータで理解していたバーとは全然違いました。 やっぱり実際に行くのとデータだけでは、経験値が全然違いますね。 「お、時間通りに来たな。おーい、閃鎖ーこっちだー」 「………」 通称、オヤッさんの人が一つの卓上のテーブル近くの椅子に座っていました。 左右に二人づつ座れる場所です。 そしてそのテーブルの周りにグルリと円状に囲んだ怖い男の人達がズラリといました。 チンピラとかヤクザの名がつきそうな人達ばかりです。 ご主人様はそんな人達の間を入ろうとすると男の人達は十分に歩けるスペースを作り退く。 まるで歓迎されているような感じ。 それと同時にご主人様がその間を抜けると逃げられない様にがっしりと周り固める。 正直、もう私はビビッています。 「まぁ掛けて下さい」 「…はい」 オヤッさんの反対側に座っていた二人のいかついオジさんが態々立ち上がり座る事を勧める。 ご主人様は低い声で答えオヤッさんの隣に座っり、いかついオジさん達も同時に座る。 ご主人様は両手をポケットに突っ込んだまま。 礼儀がちょっとなってないと注意したいですが、今は喋っちゃいけません。 といいますか、こんな張り詰めた空気の中で喋りたくありません。 「さて、役者が揃った所で話しを始めますか」 一人のいかついオジさんが先に喋りだしました。 「まず今回、閃鎖さんをお呼びにしたのは我々の不始末を言いたかったわけです」 「どのような不始末ですか」 オヤッさんはご主人様の代弁をしてるように答えた。 「まずこれを見てください」 もう一人のオジさんが頑丈そうなアタッシュケースを取り出してきて中身を見せてくれました。 中身に入っていたのは、数枚の何かのリストみたいです。 ご主人様は無言でそのリストを全部受け取り目をとおす。 私もご主人様の右肩にズーッといるのでついでに見せてもらい、そしてすぐにその紙に書かれてるリストがなんなのか分かりました。 この紙は記されてる内容はすべて武装神姫の違法改造武器です。 しかも武器の全ての製作者覧がご主人様の『閃鎖』という名前で埋め尽くされていました。 「見ての通り。我々も色々な事に手を出して仕事をしている訳ですが…今回、この武装神姫で一つ閃鎖さんにご迷惑をかけてしまった。おい、アレを」 「はい」 命令したオジさんがもう一人のオジさんに命令し、次は海外旅行で行くときに使われる大きなハードケースを出してきました。 そしてハードケースを開けると。 「ン~~~~!?!?」 一人の男の人が両腕両足を頑丈な紐で縛られて口には叫べないようにガムテープが張られています…パンツ一丁の姿で…。 「うちの者です。こいつは自分が儲けるように無断で閃鎖さんの商品を無断で売り捌いていたんだ。オマケにうちの島ならともかく、他の島で売ってやがった」 「おかげで、他の島の連中達が怒ってうちの組にけしかけてきて大変でした」 「治まりはついたのですか?」 今度はオヤッさんが冷静沈着に言う。 いつも見ていたオヤッさんも別人を見てるようです。 「そこら辺はご心配なく。うちの組がそれなりの金額を譲渡したので。赤字なのは変わらないが…」 「そうですか。ではこいつをどうするんですか?」 「この者の処分は閃鎖さんの言葉で決まる。生かすのも殺すのも閃鎖さん次第です」 「………」 ご主人様はバサッとリストされている紙を全て机に置き煙草に火をつけた。 「…そのゲス野郎にチャンスを与えてやる。だが、もし次にヘマしたら命は無いと思え、と言っとけ」 「生かしておくのか?」 「人間、一度は欲に負ける事がある。けどもう一度同じ過ちを繰り返したらそいつは学習能力が無い訳だ。そんな人間は生かしとく必要は無い。この町で生きていくには学習が必要な事だからな」 「そうか。閃鎖さんがそう言うなら分かった」 「これで俺の用事は済んだか?」 「いや、もう一つある。この件でうちの懐が少し寂しくなっちまったものだから、少し閃鎖さんの商品を取り寄せをしたい」 「なら、オヤッさんに言ってくれ。俺は開発者なのでね。帰ってもいいか?」 「そいう事ならもう結構です。この度は申し訳なかった」 「気をつけて仕事してくれよ」 そう言ってご主人様は立ち上がり店をでようとした。 「おまえら閃鎖を送れ」 「いい、一人で帰れる。後は頼むぜ、オヤッさん」 「おう、任しとけ」 そしてご主人様と私は店を出た。 …。 ……。 ………。 ご主人様の車に乗って数分が経ちました。 丁度、アンダーグラウンドの町から出た頃です。 その時でした。 「今日は悪かったな」 「エッ?」 ご主人様が私に話してくれました。 最初みたく冷酷な声ではなく、温かみがある声でした。 「なんとなく…解ったろ?俺が今日、お前にきつく言った言葉がなんなのか」 「はい…。でもなんであんな風に言ったのですか?」 「その言い方だと、まだ少し解ってないみたいだな」 煙草に火をつけ運転席側の窓を全開にするご主人様。 煙は車から外に出て消えていく。 「お前には必要だと思ったからだ。俺が今どいう立場にいるのかちゃんと理解しているのかな…てな」 「立場?」 「そう。お前、もし俺がなにも言わずにあんな所に行ったらどうしてた?」 「それは…多分、ご主人様を止めて無理矢理にでも連れて帰ろうとします。ご主人様にはなるべく普通の生活して欲しいですし」 「…はぁ~。やっぱりそんな事かぁ」 溜息を吐き煙草を右手で持ちながら運転する。 「アンジェラス。俺はな…普通の大学生、天薙龍悪の顔をと今日見せたヤクザと商売している閃鎖の顔を持っている」 「二つの顔ですか?」 「そうだ。それに俺はどちらかというとこっちの世界の住人に近い」 「そんな!?ご主人様は普通の人です!」 「ヤクザと仕事上関係をもってる奴がか?」 「………」 「おやおや、黙まりか?中臭い設定だが、残念だけどこれは現実だ」 私は衝撃の事実を知ってしまい俯く。 まさかご主人様は表の世界の住人でもあって裏の住人でもあるという事に。 今はまともにご主人様の顔を見る事ができません。 「幻滅したか?嫌いになったか??別に俺は構わないぜ。今日はあえてお前を連れて来たんだ」 「…あえて…ですか?」 「あぁ。アンジェラスには俺の全てを見て欲しかったんだよ」 「全て…」 私はやっとの思いで顔を上げご主人様の顔を見れた。 ご主人様の顔は苦笑いしていました。 「なんて言えば良いんだろうなぁ?アンジェラスなら俺の秘密を教えてもいいかな、と思っちゃうんだ。上手くは言えないが多分俺はお前に心を許してるんだろうな」 「私だけに心を許す…それってつまり」 「んぅ~、まぁそのなんだなぁ。俺にとってアンジェラスは特別な存在というか信頼し合える者同士というか…あーもうなんて言えば解らん」 「そうですか。私だけが、ご主人様と特別な関係を持っているのですね!」 「そいう事にしといてくれ。だぁー、なんか恥ずかしいぜ」 「クスクス♪」 私は笑いました、心の底から。 嬉しい気持ちでいっぱいです。 だって、ご主人様から『お前だけに心を許す』なんて言って頂けたのですから。 これで私はまた新しいご主人様の姿を見れました。 もっと色々なご主人様が見てみたいです。 「笑うな。ガチで恥ずかしいんだから!」 「クスクス♪すみません。でも嬉しくて…クスクス♪」 「だから笑うなって!」 そう言うご主人様も笑っているじゃないですか。 さっきまで気まずい雰囲気だったのに今はお互いを理解しあって笑っている。 嫌な一面も見てしまいましたが、今日はまたご主人様との距離が近くなったような気がします。 ご主人様、私はいつでもご主人様と一緒ですよ。 今日からまた一つよろしくお願いしますね、私が大好きなご主人様♪
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1959.html
「ある日」 この町に来てから三週間が過ぎた。 アタシがこの町に居られるのも、後一週間と少しだけ。 なのにすっかり当初の目的なんて頭の中から無くなり、アタシは今日も公園の木陰で彼等が来るのを待っている。 それにしても暑い。 木々の陰により和らいだ熱の下にありながらも、それでも暑いと感じるのだから日向に居る人たちにはさぞ暑いことだろう。 もう暑いじゃなくて、熱い。 温暖化も二十一世紀初頭に比べればその悪化具合もだいぶ緩やかになってはいるけど、それでもその傾向がマイナスに転じてはいない現在。亜熱帯と化した日本の夏はけっして住み良い環境ではない。 空気が流れた。 体にまとわり付いた汗が、その風に反応して体の熱をほんの少しだけ、奪い去る。 そしてその風と共に、待ち人がいつもの様に現れた。 「また、居たのか。案外お前も暇だねぇ?」 開口一番、憎まれ口を叩くこの男に、会いたくて堪らないのだと自覚したのはいつだったか? 「なんだか今日はどっかのお姫様みたいな格好だなっ!」 今まで自分とは遠くにある存在と思っていた小さな少女も、こんなにも愛おしく感じる。 「こんなに暑いと、スカートだってはきたくなるの。それに帽子だけじゃこの日差しは遮れないでしょ!」 今日のアタシのいでたちと言ったら、フリルのあしらわれた薄手の白いワンピースに白い日傘と、一体何時代だよ! って突っ込みを入れたくなるくらいの時代錯誤な格好だった。 正直照れくさい。 「あぁ~あ。口さえ開かなきゃ、深窓の御令嬢でも通じるのにな」 意地の悪い笑みで男は言う。 「ちょっとー。いくらアタシでも傷つくぞ」 「でもカワイイじゃんかー。ちょっと憧れだぜっ!」 「まて、お前がこんな格好したらそれこそ喋るな! って話になるぞ」 「おう! それはこの刹奈ちんがとってもカワイイって言ってるんだよなぁ?」 かわいい仕草をし、しかしその仕草を台無しにする口調でその小さな神姫は問う。 「だから色々台無しなんだよお前は」 深々とため息をつく夢絃を見て、アタシは思わず大きな声で笑ってしまった。 「……ここにも台無しが一人」 失礼だぞ! 「やっぱり今日もあの時みたいなのは起こらないね」 ヴァイオリンを弾き終えた夢絃にアタシは言った。 「あれって、結局なんだったんだろうなー」 アタシの方に跳ねて来た刹奈は、そう言うとアタシの肩に腰を下ろす。 「ね……ねぇ、体少し熱いけど大丈夫?」 刹奈の座ったアタシの肩が、少しだけ熱を感じる。 「だーいじょうぶなのさー。外気が熱いから、ちょこっとだけ廃熱がままならないだけ。今日も一生懸命踊ったもんなー」 そう言うと刹奈は花が咲くような笑みをアタシに向ける。そして小さな声で「アリガト」と言った。 「あぁ! もう! 刹奈ちんはかわいいなぁ」 もうホント抱きしめたい! ……肩に座っている神姫を抱きしめるのはムリだけど。 「……なんだかんだでお前も結構神姫好きになってきたよな」 ヴァイオリンを丁寧に片付けて、夢絃はそれとは別に持ってきていたリュックを開ける。 「これ、やるよ」 そう言ってそのリュックから取り出した箱を、アタシに差し出す。 「ちょっ……!」 どう見てもそれは武装神姫のパッケージで。 いくらアタシが神姫に疎いからといっても、これが高価なものである事くらい知っている。 ……親友であるセツナのおかげかもしれないけれど。 「こんなの受け取れる訳ないじゃん!」 勢いよく立ち上がってしまう。肩に座っていた刹奈が振り落とされまいとアタシの髪にしがみついた。 「ちょっ! 待てって。……夢絃! 話がいきなりすぎなんだって!!」 「あ? あぁ、確かにそうか」 「朔良もさ、とりあえず話だけでも聞いてよ。判断はそれからでも遅くないだろ?」 刹奈のその言葉に促される形で、アタシは静かにまた座っていたベンチに腰を下ろす。 「えっとな、実を言うとコレ、余りモンなんだ。でもさ、中古屋とかには売りたくねーし、ネットオークションなんて言語道断。だったら俺が気に入った、神姫が好きそうな奴に譲りたいって思ったんだよ」 「余り物って…… それでもこんな高価なもの貰えないよ」 アタシの覚え違いじゃなければ、神姫一体でPC一揃えが購入できるはず。そんな物を「貰えてラッキー♪」とか簡単に言えるほど無邪気じゃない。 「でも、俺はお前に……『朔良』に貰ってほしいんだ」 真剣な眼差しで、まっすぐにアタシを見て、そして初めてアタシの名前を呼んで―― そんなのズルイ。そんなことされたら、絶対に断れない。 「う、ん。……わかった」 熱くなる顔を隠すようにうなだれて見せる。 上手くごまかせたかな? そんなアタシの心配をよそに、夢絃はアタシに一歩近づく。 そして少しだけかがんで、アタシの傍らに神姫の箱を置いた。 「それならさ、明日駅前で会わないか? ここじゃセットアップ出来ないから、神姫センターにでも行こう」 「え? そんなに急がなくても……」 アタシはそう言って顔を夢絃に向けた。 その途端に―― 夢絃の唇で、アタシの口が塞がれる。 それは本当に僅かな瞬間で。 直に立ち上がった夢絃はくるりとアタシに背を向ける。 「明日十時に駅前の広場で。……遅れるなよ」 と言うと振り向きもせずにそのままリュックとヴァイオリンケースを持ち上げる。 「にししししー☆」 耳元で刹奈は笑うと、そのままアタシの肩から飛び降り、そのままの勢いで夢絃の元へ走る。 そんな二人をアタシはただ真っ赤になって見送る事しかできなかった。 そのアタシの手元には、MMS TYPE DEVILと書かれたパッケージが残されていた。 戻る / まえのはなし / つぎのはなし
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/421.html
前へ 先頭ページへ 次へ 参加手続および第一次作戦会議 2036年*月*日1144時 ホビーショップエルゴ二階 入り口をくぐったときから妙な熱気が漂っているとマスター達は感じていたが、二階への階段を上がりきらないうちにその熱気の発生源を見つけて、思わず気圧されそうになった。 エルゴの二階はもともと武装神姫バトルスペース専門で、仕切りなどなく全体がひとつの空間である。イベント当日の今日は本来の筺体は脇にどけられ、一方の壁には二十台の特設コンソールルームが並び、さらにその上の壁にはギャラリーのための巨大なペーパーディスプレイが張られている。ゆうべほとんど徹夜でマスターたちが設営したものだから、コンソールルームの手前は広い空間があるはずだった。 その空間を、人が占めていた。数百人のギャラリーが、ほとんどすし詰めになっているのである。もちろんちゃんと椅子も用意してはいたのだが、まったく足らず、半分以上が立ち見であった。 純粋に史上初の大規模バーチャルバトルを楽しみに来た者、他企業の偵察としてきているようなピチッとしたスーツを着込んだ者、抽選にもれたため参加者に託して応援しに来た者、様々であるが、たぶん神姫のことをまったく知らない人々もいるだろう。これほどまでに話題性のあるイベントなのだとあらためて知って、マスターとケンは心が躍った。 「これは、凄いな」 「で、オレたちゃどこ行きゃアいいんだ?」 ケンがきょろきょろと見回す。なにしろすし詰めであるから道が無いのである。 と、彼らから見て一番奥、つまりもっとも窓側に近いところで声が上がった。 『大会参加者は窓側の集合場所に集まってください』 エルゴ店長、夏彦の声であった。 二人はそれぞれ所定の場所(コートの胸ポケットとニット帽の中)にいる自分の神姫を振り落とされたり押しつぶされたりされないよう気をつけつつ群集をかき分けかき分け、そちらへ向かった。階段が店舗の一番奥にあることを少し呪った。ケンの風体におののいて自ら道をあける人が多かったことに、マスターは少し複雑な気持ちになる。 集合場所はギャラリー席とは分割されていて余裕があった。もう参加者全員が集まっていた。マスターとケンを入れてちょうど二十人である。 「やあ、すまない。大変なギャラリーだな」 「こんなに集まるなんて思ってもみませんでしたよ。兎羽子さんと澟奈さんが列整理に行ってくれたんですけど、行ったっきり戻ってきません」 「大丈夫なのか」 「ご心配なく。ああ見えて頑丈ですから」 「頑丈?」 妙な形容をするなとマスターは思った。 「あ、いや、何でもないです。さて、時間も押してますし、最終登録してルームに行きましょう」 最終登録は本人確認と神姫の装備確認である。装備確認はあらかじめ郵送されてあるエントリーシートに構成を書き込んでおき、ショップのイベント管理担当(多くはそのショップの店長が行う)に渡すのである。その後、コンソールにて最終審査に入る。ここで弾かれればもちろん参加不可能であるが、イベント主催側にも事前に予定装備を電信し許可されてあるから弾かれることはまず無い。 イベントの癖にずいぶん参加手続きが面倒だなと思う読者もいるだろうが、しかし実際にランクポイントや褒賞パーツが授与されるのであればその扱いは通常のオフィシャルバトルと同等なのである。 マスターはこの時になっても、参加資格にあった「一部自由」がどこまで自由なのか気になっていた。そもそもほとんどオフィシャルバトルに参加していないどころか裏バトルの常連であるケンが参加できたというのが、マスターをいっそう混乱させた。 「ケン」 「あ?」 「お前、シエンにどんな装備をさせたんだ?」 「そいつぁ・・・・・・」 少し考えるふりをして、ケンはにやりと笑った。口元のピアスがきらりと反射した。 「見てのお楽しみだ」 そう言い残して最終登録に向かって行ってしまった。 「あなたが公式武装主義者(ノーマリズマー)ね」 年季の入った声をかけられ、マスターは振り返った。 小柄でスレンダーな老婦人が立っていた。 銀色の長い髪を後ろで結んだその顔は、「苦労して勝ち取った」であろう皺が刻まれている。パリッとしたワイシャツの上に黒いベストを着ている。下はスカートではなく、フォーマルパンツである。豪奢さをひけらかさず、きつく内に秘めたまさしく老練な人物が感ぜられた。どこか大きなカジノの名ディーラーといった雰囲気だった。 適度に化粧の施された顔の、瞳の色は青い。日本人ではない。 「あなたは?」 めったに言われることの無いほど知名度の低いその名前を呼ばれて、マスターはややうろたえた。 「ごめんなさい。私はバセット・スキルト。ファーストランカーをやらせてもらってるわ。こっちは・・・・・・」 と言って胸元から神姫を取り出した。優雅さのにじみ出る仕草だった。 「はじめまして、忍者型MMSフブキの『シヅ』です」 バセットの手のひらで、シヅと名乗ったその神姫は深々とお辞儀をした。マスターは慌ててポケットからマイティを引っ張り出して挨拶させた。首根っこを掴まれたマイティは金色のボブヘアーを振って不機嫌そうにしながらも、三つ指ぞろえでこうべをたれるシヅを前にして慇懃に応じた。普段そんな礼儀正しいことことなどやっていないから、マイティの動きはぎこちなかった。後で礼儀を教えてやらねばいけない。 「この子があのマイティちゃんね。可愛い子だわ」 微笑を浮かべるバセットの後ろで、他の参加者達がなにやらざわざわと沸いていた。どうやらこの老婦人のことを話しているらしかった。それほど有名な人物なのだろうか。一人を除いてファーストランカーのことなどまったく知らないマスターは、少し申し訳ない気持ちになった。 「ファーストランカーの方が、どうして私たちを知ってるんですか?」 マスターが質問しにくくなっているところへ、率直な疑問をマイティはぶつけた。 バセットはいやな顔ひとつせず答えてくれた。 「私たちも、あなた達と同じように公式装備しか使っていないからよ」 これにはマスターが驚嘆した。 ファーストリーグで公式装備を使っている。当たり前のように響くその言葉だが、ファーストリーグを少しでも知っているオーナーならばその意味がどんなに過酷な限定条件であるかすぐに分かる。 あの鶴畑、は極端な例だが、そうでなくても勝つために手段を選ばないのは至極当然としてまかり通っている所である。違法すれすれのあらゆる装備を万全に使いこなすのが実力、もちろん運も実力のうちで、その運を思い通りに操作するのも実力。裏で八百長をやっているのはさすがに鶴畑の次男坊と長女くらいなものだが、それを抜きにしたところで、ただのオーナーが飛び込んでいってまともに戦える世界ではない。 そこで公式装備のみを用いて戦ってゆくというのは、正直「自虐」といっても良いくらいであった。 マスターは質問しにくい空気を無理に切り裂いて、一番訊きたいことを訊いた。 「ミズ・バセット。失礼ですが、ランクは?」 「72位よ」 自慢する風はまったく無かった。ただ事実のみを告げるように言って、事実、そうだった。 ファーストでトップ100位以内に入っていることが告げるのは、彼女のノーマリズムは自虐ではなく、れっきとした実力であるという証であった。 このときマスターの中には、あの片輪の悪魔へのリベンジとは別に、ファーストへ向かう動機がもう一つ生まれた。だが今の彼はまだそれに気が付いていない。 「ほら、あなたの番よ」 バセットに言われて、マスターははっと我に返った。気がどこかに飛んでいた。背中の方で店長が呼んでいた。 「失礼」 あわただしく手続きに向かおうとして、マスターは一度振り返って、 「あなたと共に戦えて光栄です。ミズ・バセット。たとえ敵でも味方でも」 この先仲間になるかどうかは分からない。チーム分けは完全にコンピュータ任せのランダムなのだ。 「ミセス、よ。夫はもう天に召されてしまったけれど」 何の屈託も見せずにバセットは言った。マスターは一瞬どう返してよいか迷ったが、 「頑張りましょうね」 その言葉に深々と礼をした。 手続きを済ませ、割り当てられたコンソールルームへ向かおうとすると、 「あーっ、マイティちゃんなのーっ」 丸っこい声が斜め後ろからぶつかった。 びっくりして振り向くと、そこには見覚えのあるマオチャオと、長いポニーテールの少女。 「ねここちゃん!?」 マイティも目を見張った。が、飛びかかられるところまでは回避できなかったようである。気が付けばすでにマスターの腕の上でマイティはねここに抱きつかれていた。 「また会えたの、感激~っ」 「ちょっと待って落ち着いて。あっ、だめ、そんなとこさすらないで、あっ、揉んじゃだめえぅっ」 本物のネコばりにじゃれ付くものだから、もうマスターの腕の上は喧々である。時折妙につややかな叫びが上がるのは気のせいにしておく。 「風見美砂さんか。君もこの大会に?」 腕の上は完全に放っておいて、マスターはこの猫の飼い主に挨拶した。 「ええ、ねここが『どうしても飛びたい』って言って聞かないものですから。まさか受かっちゃうなんて」 「空対空戦闘の経験は」 「正直、まだちょっと不安なんです。マイティちゃんがいてくれれば心強いんですけれど」 「同じチームになれることを祈っているよ」 「はいっ」 まだごろごろと懐いているねここを引き剥がさせて、マスターは別れた。美砂の肩でハウリンがものすごい形相でこちらを睨みつけていたのはわざと無視した。シエンでもあんな顔はしないな。 彼らが割り当てられたルームは十一番。一番真ん中、ディスプレイの真下である。 ルームは移動式の個室であった。ドアを閉めるとギャラリーのざわざわした喧騒がふっと消えた。耳を澄ませばかすかに聞こえる程度だが、気にはならない。かなりの防音機能である。床は絨毯で、一角に見慣れたバーチャルバトルコンソール一式が置かれ、一時間腰を据えて挑めるようリクライニングシートが設けられている。設営のときから感じていたが、かなり金のかかった設備である。意外に閉塞感が無いと思ったら、天井が透明なアクリル張り。見上げれば巨大なペーパーディスプレイが一面に広がっている。店長の計らいで小型の冷蔵庫まで設置され、その中には清涼飲料水が何本かストックされていた。 ここで七時間半戦うのである。ラウンド中にやられても、次のラウンドには参加できるルールである。もし撃墜されたとしてもその間はただ待っているつもりは無かった。そういう時間こそ有効に使うべきだとマスターは考えた。 だが、肝心のルールの詳細がまだ分からない。負けた後に戦いを観戦できるのかどうかも。まあここで見られなくなっても、見上げればドでかいディスプレイである。情報収集に困ることは無いだろう。 十二時までまだ数分あった。コンソールを起動し、コネクティングポッドにマイティを座らせ、メインボード、サイドボードのそれぞれにあらかじめ申請していた武装を設置してゆく。サイドボードにはさらにオフィシャルのマークが入った紙箱を入れた。中には何かがぎっしり詰め込まれているようだった。ボードの窓を閉める。 これで時間が来たら即座にアクセスできる。他にやることもなくなったので冷蔵庫を開けようとすると、コンソールのテーブルの上に一枚の白いビニールパックが置いてあるのを見つけた。 手にとって見ると、中にカードが入っているようだった。パックの表面には赤文字で大きく「許可されるまで開封しないでください」との注意書きがある。コンソールの脇には増設されたカードスロットもあった。何か特別なことをするのだろう。考えるのは開けてからで良い。 パックを傍らに置いて、時間を待った。冷蔵庫の中身は全部スポーツドリンクだった。いま季節は冬だが、空調が利いているとはいえルーム内は余計に熱を持つだろう。この選択は賢い。 一口飲んでいるところで時間が来た。マイティを寝かせ、激励の言葉をかけ、ハッチクローズ。 アクセス開始。 ◆ ◆ ◆ BGM Operation(エースコンバット04・オリジナルサウンドトラックより) 1200時 114サーバー・ブリーフィングルーム(VR空間) ブリーフィングルームはまるで宴会場だった。マイティはその騒がしさに圧倒されて、まるでどこか知らない土地に放り出されたような気持ちになった。 神姫スケールに縮小された大部屋だった。くぐもった轟音がひっきりなしに響いてくるので、ここはどこかの航空機の中なのかもしれないとマイティは叫びだしたくなる衝動を抑えて冷静に分析した。ずいぶん凝ったVR構築である。 全ての神姫が素体状態で騒ぎ合っている。カスタムタイプの神姫はひどく目立っていた。が、マイティを含むほとんどの神姫たちは姿かたちだけでは誰が誰だか判別できないから、オンラインゲームよろしく頭の上に名前が浮かんでいる。マイティは不安に耐え切れずに頭上の名前たちを見渡した。まるで自分が人間になったような雰囲気だった。自分のを含むオーナー達の姿が見えないのも不思議な感覚を覚えさせた。 見覚えのある名前は見つけられなかった。いよいよわめき出しそうになるところへ、まさにタイミングよく真後ろから抱きつかれた。 「ぃひゃああーっ!?」 素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。水を打ったように喧騒が静まって、周囲の神姫たち全員の視線がマイティに注がれる。二百体以上はいる。マイティという名前のアーンヴァルは一躍みんなの知るところとなった。 「ごろごろ」 後ろから抱きついてきたのはもちろん、ねここである。 「マイティ!?」 集団から抜き出て近づいてきたハウリンは、シエンである。その後ろからはフブキ。シヅであった。 さらに次々と何体かの神姫が集まってくる。なんと同じエルゴ接続の神姫たちであった。彼女らはマイティとシヅそして彼女達のマスターの会話を見てすでに二体を見知っていた。他の二百体弱の神姫がほぼばらばらの場所から集まっている中、奇跡的な確立で、あの場にいた二十体全員が同じチームに割り振られたのである。 マイティを中心にして、彼女らに奇妙な連帯感が湧いた。自然と一つの飛行隊が出来上がった。 エルゴ飛行隊(ERGO Spuadron)の結成である。 間もなくアナウンスが聞こえ、第一次ブリーフィングが開始された。 前へ 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1036.html
第十幕、上幕。 ・・・。 銀色のケースがある。 丁重に扱われるように、多重になっているケースがある。 小さなそのケースには、かつて『生きていた』神姫のパーツが一つ、大切に納められている。 小さなケースの中の、とてもとても小さなパーツ。 たった一体の神姫の、たった一つの身体のパーツに過ぎない。 だけど。それでも、ほんの少しとはいえ、確かに大切な時を歩んだカラダには。 人さえ信じる者が少ない大切な物・・・心。それがあると。 そう、信じていた神姫がいた。 心に伝えようとした、声。 心と歩もうとした、脚。 心を包もうとした、手。 心さえ見つめようとした、瞳。 それらと共に・・・未来へと馳せられた想い・・・そのものが。そのケースには納められていた。 だが。それが、もしも。 無駄になるとすれば・・・。 その未来は、優しいだろうか。 12月も下旬。22日の夕方。千葉県峡国神姫研究所、所長室。 「はい・・・それでは。前向きに検討させて頂きます。はい、よろしくお願い致します。こちらこそ」 初老の女性、小幡紗枝は、そう括って電話を切り、デスクに置いた。 そのままやれやれと大きく溜息を付いて随分と、それこそ一年分の疲れが来ている首を回す。 老け込む歳では無いと本人は思っているのだが。このような仕事故の職業病か・・・随分と最近肩が凝る。忙しい事は決して悪い事ではないものの・・・。 認めたくは無いが、この歳では流石に身体に溜まるようだ。 (・・・ふふっ。強がりですね) 外は風が強くなってきたのか、窓越しでも風音がはっきりと聞こえるようになってきた。ふと立ち上がり、窓際に歩み寄りカーテンを指先で開けると、風に誘われたのか暗い雲が空を少しずつ覆い隠していく様が見えた。 クリスマスも近いというのに嵐でも来るのだろうか? まぁ、それで神が不貞腐れるとすれば、キリスト教徒には辛いのだろう。そんな下らない事を考えていると。 「所長、失礼します」 数度のノックの後、オートドアが開き、眼鏡をかけた見たところ20代後半ほどの男性が書類らしいファイルを片手に顔を覗かせた。 「あら、大河内君」 小幡がそう呼んだ男性の背の後でドアが静かに閉まると、カーテン越しに外を覗いていたらしい所長に肩をすくませる。 その男性、この研究所の所員である大河内芳和は、随分と古い印象を持つ黒縁眼鏡のズレを直しながら続けた。 「はい、今年分の・・・最後になりますか。一通りのデータ書類と、丁度・・・その、用件です」 「丁度?」 首を傾げて聞き返すと、彼は笑って指で窓を指した。 「雪が混ざれば吹雪く事になるかもしれません。全員定時で帰しましょうか」 「あ。そうですね・・・」 納得しつつ、さっと軽くカーテンを閉め直すと。小幡は椅子に戻って深く座りなおした。 「そろそろ、今年も終わるのですね。皆、お疲れ様でしたと伝えなくては」 堅苦しそうな表情、仕草。口調・・・しかしながら。どうにも人間臭さが前に出てしまう。 そんな所長だからこそ、か。彼は軽く肩を竦めた。 「所長もお疲れ様でした。ところで・・・先の電話の用件は、以前の?」 「えぇ、一応は了承しましたよ。あちらも喜んでくれました」 その言葉に大河内は苦笑ともつかぬ笑みを浮かべて頷く。 この研究所のバトル筐体の一般解放の事。 峡国はもとより武装神姫プロジェクト発足後は、武装テストを中心に行ってきた。その為、その筐体のシステムクオリティは常に最高級に位置する事が求められている。 ・・・以前より、『そういう打診』があった事は事実だが・・・。 「大会等の限定的に貸し出す事にしようと思っているのですが、あとは。今までどおり修理など」 意見を求めるように首を傾げる小幡に、彼は頷いた。 「『神姫も、近くなりにけり』ですか。良いのではないでしょうか」 「名前を変える必要があるかも知れませんね。『神姫研究所』では堅すぎますし・・・」 そういって小幡は笑った。 武装神姫以前、特に文化系特化神姫。エレティレス、ミネルヴァ、クラリネットといったタイプの神姫が発売された時には。とても一般に神姫がここまで普及するとは思えなかった。 当時、技術の最新鋭の結集。そんな代物では、そのほとんどがオーダーハンドメイドだった。今も、解析されない部分さえある一種不思議な存在、神姫。 ・・・時の流れは早い。その歴史の波濤は全てを押し流す。 今では。随分と『人に近いところ』まで神姫がやってきている。この『武装神姫ブーム』はその現れとも言えるだろう。 「・・・」 バトルだけではない。 普及していく彼女達に触れ、多くの人間が。きっと多くの事を感じることになる。 それは決して正の事だけではあるまい・・・しかし。 小幡は節くれだった指を合わせて何らかを考え込むように目を閉じた。 「所長?」 「クリスマスまで、あと三日。ですね」 彼女が何を言いたいかを解し、大河内はふっと驚いたような表情を浮かべて、しかし。そのまま自身もただ、目を閉じた。 「はい。そうですね」 「今も聞こえますか?」 何が。とは聞き返さない。ただ、彼は目を開けると小さく笑う。 「そう。・・・私もです」 そう言って、小幡も笑って見せた。 ・・・。 12月の、25日。 それは。峡国研究所所員にとって。忘れることが出来ない『命日』。 大河内も、その光景を覚えている。 作られた身体。たった一つの身体を愛しげに、その小さな自分の手で抱きすくめ、最期まで優しい微笑を浮かべながら・・・美しい声で別れの言葉を紡ぐ美しい姿を。 感謝さえ述べて。彼女は、涙を流す彼らの前で。その動きを永遠に停止した。 『えぇ、そうですね。私は幸せでした』 聞こえる。・・・今も。 彼女の美しい声が。彼女の小気味良い足音が。 思えば、ヒトが心を失ったと言われた『灰色の2010年代』。全てから彩が消えた時代に生まれた彼は。 あの時。ようやく涙を知ったのではなかろうか。 『それでは皆さん。たくさんの心を・・・ありがとうございました』 最後に一筋だけ伝った涙。 今思えば、あの涙に。彼女は・・・どれほどの想いを込めたのだろう。 彼女が口にしたその『言葉』は。彼にしてみれば最後の後悔。 それはむしろ自分たちが・・・。彼女に送るべき言葉だったから。 「・・・。では、先に言った様に定時で帰らせます。所長もお早く」 「ありがとう」 と、そう答えたとき。電話が鳴った。 「あら・・・?」 ふと番号を見れば、それは同業者・・・研究所からのもの。しかし、その研究所のある場所は。 (?) ここから遥か遠方。 一応、といった感じで。とりあえず登録してあるだけの番号だ。ふと、小さく眉を顰めながらも、小幡はその受話器を取った。 「はい、峡国研究所所長、小幡です」 訝しげな表情を声に出すまいとする彼女に遠慮するように。 大河内は書類をファイルごと机にそっと置いた。小幡に手で合図され、一度礼をして踵を返す。 「・・・えっ。はい、確かにありますが・・・」 「?」 「えぇ、その通りです。クラリネットタイプですが。それに、そういう初期不良なら・・・」 その単語が出た事に、彼はぎくりとして肩越しに振り返った。 「はい。あぁ・・・CSCリンクが・・・はい、はい。なるほど。それならば確かにこちらの方が良いかもしれませんね。えぇ・・・え?」 小幡の声に、僅かながら興奮が混ざっている。 「なんという・・・そうですか」 その顔に驚愕が走った。 「同系の波長が! そこまで条件が揃うのは・・・奇跡的ですね」 「・・・!」 「解りました・・・その、『違う神姫ではイヤだ』というマスターの方の為にも・・・はい。必ず」 その堅苦しささえ含めて浮かべていた訝しげな表情が、柔和な笑みに変わっていく。 (まさか?) 大河内は身体を振り向けて尚もズレていた眼鏡を押し上げた。 小幡は手を軽く振ってその事を肯定するように頷く。 (・・・あの、最後の部位が?) よもや『合う』神姫が存在するとは思わなかった。 神の導きか。それとも・・・。 (それとも・・・あなたですか? ゼリスさん) 大河内も無精髭が伸びた顔で、笑みを浮かべて頷き返す。 だが。その時だった。 「・・・え?」 明らかに調子の違う声と共に、小幡の表情が、固まった。 「・・・。・・・ッ!?」 そのまま笑みが崩れ、愕然とした表情に変わっていく。 「それは・・・つまり。いえ、もしも」 受話器を持つ手は震え、唇がわななく。彼は彼女の異常に思わず眉を顰めた。 (?) それから十数分、いや。もっと長くあっただろうか。 (・・・) 小幡の口からは数度聞き慣れぬ・・・いや、人間としては決して聞き慣れたくない単語が零れ、それらはその度に大河内の浮かれた気分を氷点下に叩き落していく。 「申し訳ありません・・・。折り返し、電話致します・・・はい。いえ、お気遣い。ありがとうございます。それでは」 そのまま、震える指で電話を切ると、卓上に置き。・・・小幡は目を見開いたまま、一度息を吐いた。 「所長・・・」 大体の内容は掴みはした。だからこそ、彼は、即座に口を開いて聞かなくてはならなかった。 『どうするのか』と。 「・・・無駄になるかもしれない」 小さな声。 「いや、大切な物が、無駄になる・・・とすれば」 その大河内の問いを待つ事も無く。小幡は呟くように口を開いた。 「そんな未来を選択する事を。出来るのでしょうか?」 「・・・」 「生まれて、すぐに・・・」 消えゆく事になる・・・かもしれない。 そんな『心』を、私は生み出すことが出来るのだろうか? 最後の言葉は、既に声になっていなかった。 何も持たずに生まれる神姫。その命の中で、何よりも繋がりを求める彼女達。 何も持たずに心が生まれ出で。 しかし、その心は時を走ることさえ出来ず、何も想わずに消えるとすれば。 そんな事を。自分は、決断出来るのか? ゼリスの身体を、想いがこもった最後のパーツが。 『無駄』になると解っていても。 ぽつり、ぽつりと話す小幡から、先の電話の内容を掴み、大河内は腕を組んで唸った。想像以上に事態は急を要するらしい。 彼はしばしの間、考え込んでいたが。 突如、自分でもぎょっとする案が頭を走った。 (それは・・・だけど) それをしてどうなる? ・・・いや、どうなるかでは、あるまい。きっと。彼が意を決するまで僅か数秒。 「所長・・・『訊いて』みては、いかがでしょう?」 その言葉に、小幡は顔を上げた。 「訊く? 誰に?」 その目をじっと見返し、彼自身も苦しげに言葉を続ける。 「ゼリスさんを・・・識っている者がいます」 辛そうな絞り出すような声に、小幡は目を見開いた。 「まさか。彼女達に伝えよと? この事を?」 「私達と同じほどに。彼女達は強くゼリスさんと繋がりを持ちます」 「・・・それは」 「はい。これが何になるかは解りません。しかし、訊いてみるべきかと思います」 「・・・」 沈黙が返る。大河内はじっと彼女の声を待つだけだ。 「・・・。・・・私達では、解らない繋がりがある。ですか」 「所長は恐らくゼリスさんと最も強い繋がりを持っておられます。しかし、ヒトである私達とは違います、彼女たちもまた、神姫なのです。ある意味これは」 そこまで言ったところで、弱々しく、手でその先を制した。 「そう。ですね」 顔を上げて、一度大きく息を吐くと。 小幡は、電話に手を伸ばした。 ・・・。 「それで、それは。いつですの?」 ヴィネットはいつものクレイドルの上、キャッシャーに接続しているコンピュータ。そのウィンドゥにに映る小幡に尋ねた。その真紅の目は常より鋭く、常よりも美しいと思わせる声はしかし緊張を張り巡らせている。 『二日後・・・です』 その言葉に息を飲んだのは、ヴィネットではなく。隣に立つリカルドの方であった。 「二日とは・・・なんと」 「そうですか、時間は・・・無いのですね」 猛禽を思わせる視線のまま、じっと画面に映る小幡を見つめて。 「母の身体、他ならぬ母の身体です。無論、そのような事。決して諸手を上げて賛成とは言えません・・・それが『長女』たる。私の選ぶべき言葉でしょう」 『そう、ですか』 「しかし・・・それでも」 姿さえ知らぬ、妹となるかもしれぬ者に。 神姫として、最も苦痛ともいえる悲しみを一種『強いる』事が出来ようか? (だけど・・・) ヴィネットは声と、心とが揺れるのを感じていた。 「それでいても、私は・・・」 ・・・。 「少しでも、会えるなら。会えるなら起こしてあげて!」 フェスタは自宅の応接間に持ってこられた電話の前で叫んだ。 「その・・・。会う『時間』は、少しでもあるんですか?」 「・・・フェスタ、落ち着いて」 マコトに宥められるが、彼女はぽろぽろと涙を零しながら、美しい山吹色の光を湛える髪を揺らして首を振る。 『フェスタさん。もしも間に合ったとしても・・・』 小幡の声が電話から小さく零れる。 「間に合ったと、しても?」 最早答えられぬフェスタの代わりに、マコトが先を急かす。 『恐らく会話が出来たりする状態では無いという事です』 「・・・」 しゃくり上げながら、ぺたん、と。その応接間の木製の天板に、フェスタは腰を落とした。 「どうして・・・」 『フェスタさん、悪い結果もまた、あくまで可能性です』 「・・・うん。解ってます」 小幡の声に、力なく答える。 「解って、ます・・・。解って・・・るんです」 そう繰り返す。が、彼女には涙が止まらない理由は。解らなかった。 それが、きっと神姫にとって、何よりも辛いことだと解るから。 やがて。しばらくの後。そのまま、顔を上げずに。 「・・・私、なら・・・」 ・・・。 ルクスはスピーカーモードになっているアキの携帯電話の前で立ち竦んでいた。 その震える唇で言葉を紡ぐ。 「会話さえも・・・。一度の会話さえも。不可能である、という事ですか?」 『・・・』 「なら・・・」 ゆっくりと。絞り出すように、小さく呟く。 「せめて、会って・・・。その・・・『会える』のでしょうか?」 『解りません。恐らく迅速に行ったとしても。全身麻酔に入っている可能性はありますし・・・それに既に』 唇を噛み、言葉を失ったパートナーを、アキが心配そうに覗き込む。 「・・・ルクス」 「その、それは」 声は揺れていた。怒りか、悲しみか。それは自身も介する事は出来ない。 「どれくらいで成功するのでしょうか・・・いえ」 可能性など無意味であると知り、首を振る。 答えを小幡が知らない事も解っている。だが、それでもルクスは問い尋ねなくてはならなかった。 気休めにもならない、その言葉を。 「成功、するのでしょうか?」 だが。 解答は、返って来なかった。 ふっと、その銀色の瞳で天を仰ぐ。 「母様の身体・・・。これはあくまで個人的な意見。述べさせていただきます・・・お聞きください」 ・・・。 電話を切り、小幡は首を振った。 「この結果は、想定できませんでした」 「皆、同じ解答を返しましたね」 大河内は、険しい顔のまま、僅かながら意外そうな声で言った。 「きっと。・・・何かを、知っているのでしょう」 目を伏せたまま、小幡は首を振る。 「それは・・・人が解らない感情。人が信じれない何か・・・その何かを、信じているのかもしれません」 「所長・・・」 その声に一度だけ頷き、彼女は最後の姉妹の電話番号を押した。 ・・・。 ボタンは久方ぶりに帰ってきたコウの自宅。 その仕事でも使用しているノート端末をTV電話として使い、その前でじっと腕を組んで胡坐をかいて座っていた。 「・・・」 コウはどっかと横の椅子に座り、何も言わず、その様子を見ているだけだ。 先までコウが吸っていた煙草は既に燃え尽き、沈黙のみがその場を支配する。耳が痛くなるような、冷たく重い空気が流れていた。 「なぁ、小幡殿」 ややあって。ボタンがようやく切り出した。 『はい』 「それを・・・。その神姫が望むと思うか?」 思いもしない問いを返され、小幡は声を失った。 『・・・その、神姫が、ですか?』 ボタンはじっと画面の向こうにいる小幡を直視する。 『その神姫は、未だ生まれてもいません。誕生させる為に・・・』 その返答に満足げにボタンは頷いた。 「人間らしい考え方だ、ありがとう。だが・・・神姫はそもそも、CSCが植え込まれ、初めて声を上げたときに『生まれる』のだろうか」 そういって、彼女は自分の掌を見つめた。 「既にCSC以外の全てを持ち、それ以外を持たぬ。決して『生まれる』という事が、心が動き出すという意味でもない・・・アタシは、そうも想う。その神姫は既に生まれているが・・・心を見つけようとしているだけだ」 しばし、視線を宙に這わせ。うん、と一度頷く。 「目覚める・・・いや、あえて『芽生える』。といった方が良いかもしれないな。それは」 モニターの向こうで、小幡が僅かに目を見開いた。彼女は、それを伝えてはいないはず。 その神姫が・・・。そのMMSタイプが・・・。 「なれば。もう生まれている神姫が。芽生え、自分であると認識し。光を知り、目を開け・・・そして。主の想いを受けることも無く。再び目を閉じるとして・・・それを望むだろうか?」 答えれぬままの小幡に一つ息をつき。淡々とボタンは続けた。 「アタシ達は何も持たずに生まれる。自分が自分であるという事は、この世界で心に触れ、心を抱き、風に吹かれる事で知るのだ。それさえ出来ず、それを許されぬ事を。その神姫は望むだろうか?」 『・・・』 無言を返すしかない小幡。そんなことは。 しばし顔を伏せ。やがて、ボタンはその大きな目をじっと彼女の映るディスプレイに向けた。 「アタシなら・・・望むかもしれない」 『!』 「・・・例えそれが一時でも構わない。それが一瞬で構わないんだ。しかし、そのCSCをセットしてもらった事。起動スイッチを押して貰った事。その事だけでも喜んで目覚めるかもしれない。だが・・・それは」 「ボタン」 それまで沈黙を守っていたコウが、じろりと視線を動かして、その口を開いた。 「どいつもこいつも。勝手に幸せになる、お前みたいなバカじゃねぇだろ」 「・・・。そうではある、主」 ボタンは恐ろしく強い。その心は死を知っている。絶望を知っている。 それを彼は、彼女と共に暮らしてきた彼は。誰よりも知っている。 ボタンなら全てを包み、全てを受け入れ、その『手』で抱きしめる事が出来るだろう。 だが・・・。 「なぁ、小幡さんよ。今、このバカ犬が言ったとおりだ。それを望む、望まないは神姫それぞれでしかねぇ」 『・・・えぇ』 「で。アンタは。エゴに生きてみる気があるか?」 コウは、ずいっと大きな身体を乗り出すように、小幡に問い尋ねた。 『・・・エゴ? ですか』 「そう、エゴだ。自分勝手に楽な解釈をして。自分勝手に動いて、他者よりも自分を可愛い。そう生きてみる気はあるか?」 いつもの得意な笑みさえ浮かべず、コウは続ける。その視線には何かを試すような意さえ込められていた。ボタンはきょとんと自身の主人を見上げる事しか出来ない。 「こっからは神姫どうこうじゃない。『人』としてのアンタの胸先三寸にかかる。聞け」 『・・・』 「コレは飽くまで、前例があるだけだが・・・」 『・・・それ・・・。ですか・・・』 話し終えた後。悲痛に近い表情を浮かべて、小幡は首を小さく振った。 「あぁ、知っているだろうが。方法として、あるには、ある。今回は特に、特別だ」 「主・・・しかし! ・・・しかし・・・それは」 ボタンが何か言いたげに、しかし。何を言えば良いか解らずに困ったような表情で首を振りながら見上げ続けている。 恐らくは泣いているであろう、その姿をあえて視界にいれないようにしながら。 「・・・。まぁ。やれと言われてもアンタにゃぁ簡単に出来ないだろうが」 余り言いたくなさげに。いつものように、やる気無さげに。彼は続けた。 「だったら。その神姫に直接『聞いて』みな。それでいいか、とな。訊けるなら・・・だが」 ・・・。 電話を切った後。小幡はちらりと大河内を見た。 「確かに前例はあります。確か二件ほど」 その言葉に頷くと。彼女はゆっくりと立ち上がった。 「所長」 心配そうな声を手で制する。 「今から準備をして行きます。時間がありません」 「・・・。訊くのですか? その神姫に。その問いを」 机の電子ロックを解除し、中から、小さな銀色のケースを取り出し、彼女は握り締めた。 「直接・・・訊けるのですか? 所長」 無機質なケースの冷たさだけがはっきりと伝わってくる。小幡はそのケースをじっと見つめ、やがて、そのまま窓に視線を向けた。 そう。この部屋。この窓。 あの日・・・今年の一月一日に。私は誓った。貴女の遺志を受け継ぐと。 窓を開けようと手を伸ばし、しかし。小幡はその鍵に手をかけた所で動きを止めた。外に吹き荒れるような強い風が、何かを彼女に知らせる警鐘のように鳴り響いていた。 (・・・ゼリス) その風に憧れると笑って言った彼女の名を心中で呼ぶ。 ・・・あなたなら。どうしますか・・・? ・・・今でも、私の背を。押してくれますか? ・・・。 翌日、深夜三時。新函館空港。 小幡は、雪が積もる北の大地に降り立った。今もまだ小降りとはいえ雪は降り続いている。 が、それは決して吹雪いてはいない。 そう。 そこには、あれほど千葉では強かった、全てを吹き押す風は。 その一切、吹いて・・・いなかった。 第十間幕
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1429.html
アイドルは神姫を救う? 前編 あの試合から1ヶ月がたった。恒一はいずると話すことが少なくなり、毎日のように研究所に通っていた。 (恒一、シュートレイがやられたダメージが大きいのが相当ショックだったんだろう…) いずるは彼の姿を見て心配になっていた。 あの試合の後、シュートレイは集中治療室に運ばれた。一命を取り留めたものの、彼女の精神的ダメージは思ったよりも深刻だった。あれ以来、虚ろな状態で何も反応を見せなくなってしまったのだ。おそらく自分が破壊されるイメージが脳裏に焼きついて、トラウマになっているのだろう。日常生活もままならない状態なので、、シュートレイは今もリハビリを続けている。 今日も恒一は小百合の下へ足を運んでいるのだろう。いずるはそんな彼のことを気にかけていた。 「どうしたのいずる、そんなに深刻な顔して」 家に帰ってきたいずるを、ホーリーが出迎えた。彼女もそのことが心配でしょうがないのだ。 「恒一の事だよ、あの事件から急に元気がなくなってね」 「ああ、恒一のことか。それで恒一は今どうしてるの?」 ホーリーの質問に、いずるは少し落ち着いて答えた。 「小百合さんの研究所に通ってシュートレイの看病さ。どうやら回復が遅れてるみたいなんだ」 「シュートレイはもう傷は治ってるんだよね?それなのに、どうして恒一のもとに帰らないの?」 「それは、彼女の心が病んでるからなんだ…」 重々しい言葉を放ついずるを見て、ホーリーは少し寂しそうな顔になった。 「病んでるって、そんなに重病なの?だったらホーリーたちもシュートレイを元気付けてあげないと」 「そうだな、だったらあとでお見舞いにでも行こうか」 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。 『すいません、宅急便です』 どうやら宅急便の人が荷物を届けに来たみたいだ。いずるは玄関に行って荷物をとりに行った。 荷物の送り主はいずるの実家からだった。その中身は米やラーメンなどの食料品や、衣類などの日用品だった。 「母さんの奴、こんなもの送ってくるなんて」 箱の中を一通り出し終わったいずるは、包装に包まれた箱があることに気付いた。 「あれ、こんなものが…」 どう見ても怪しい包装箱を、いずるは恐る恐る開けてみた。 「…これって、神姫か…?」 包装を取り除いた箱に書いてあるのは、『武装神姫』の文字があった。どうやら親は神姫も一緒に送ってきたようだ。 「どうしてうちの親が神姫のことを知ってるんだろう?」 いずるはその中身を開けてみることにした。その中身はアイドルタイプの神姫とその付属パーツ、起動ディスクとクレイドル、そして手紙が入っていた。 「ええと…何々…」 いずるは手紙を読んでみることにした。 『いずるへ、お前も一人では寂しいだろうから、最近はやっている友達ロボットを送る事にした。最初コレを見たときはビックリしたよ。何せ胴体がない生首状態だったんだから。慌てて胴体を買ってきて繋げたよ。でもまだ起動してないから安心して。あと起動に必要なものは出来る限り用意したつもりだから。このロボットがお前の生活に潤いを与えてくれる事を祈ってるからね。あと、年に一回でもいいからうちに帰ってきなさいよ。 母より』 「…」 いずるは暫くの間言葉が出なかった。その後我に帰ると、改めて母が送ってきた神姫を手に取った。 「相変わらず変わってるよなあ、母さんは。よく父さんが止めなかったもんだ」 さっそくいずるはパソコンに神姫を繋ぎ、起動ディスクを入れた。 「起動の仕方は小百合さんから教わってるから大丈夫だ」 いずるはもしものときに再起動できるように小百合から起動のノウハウを教えてもらっていた。そのため、初めての起動でもある程度のことは知っているのだ。 「よし、これで準備OKと…。さっそく起動させるぞ」 起動ボタンをクリックするいずる。すると神姫の目が少しずつ開いていった。 「…起動確認しました。始めまして、あなたがわたしのオーナーですね」 起動成功。続いていずるはオーナー認識のための手続きを始めた。 「そう、私は都村いずる。君のオーナーだ」 神姫はにこっと笑い、いずるのことをオーナーと認識した。 「それでは、わたしに名前を付けてください。あなたのお気に入りの名前を付けてくださいね」 いずるは悩んだ。名前を決めていなかったのだ。 「そうだな…、どうしようか…」 ホーリーの時は思いつきでつけたのでそんなに悩む事はなかったのだが、今回は状況が違う。いずるは悩みながら名前を考えた。 「…よし、きみの名前はミルキーだ」 いずるは彼女の名前を「ミルキー」と名づけた。かわいらしいと思ったからだ。 「ミルキーですね。登録しました。始めまして、わたしの名前はミルキーです。よろしくおねがいしますね」 やっと登録が終わった。これで彼女もいずるのパートナーになったのだ。 「ねえいずる~、もう入っていい?」 隣の部屋からホーリーの声が聞こえてくる。もう痺れを切らしているのだ。 「もういいよ。いま登録が終わったところだ」 登録終了を聞いたホーリーは喜んで部屋に入ってきた。 「ホーリーにも妹ができたんだね!やった~!!」 大はしゃぎするホーリー。それを見ていたいずるはホーリーに注意した。 「お前はこれからお姉さんになるんだから、見本になるようなことをしないとダメじゃないか。ほら、ミルキーが笑ってるぞ」 いずるが指差した先には、くすくすと笑うミルキーの姿があった。 「あ、ごめんね。つい嬉しくなっちゃって、こんなことしちゃった」 「いいえ、こんなに喜んでくれて、わたしも嬉しいです。これからもよろしくお願いします、ホーリーお姉さん」 ぺこりとお辞儀をするミルキー。意外と礼儀正しいのかもしれない。 「オーナーさんもよろしくお願いしますね」 「いずるでいいよ、ミルキー」 「では、改めてお願いします、いずるさん」 ミルキーはにっこりと微笑んだ。 それからというもの、いずるはミルキーの育成に全力を注ぎ込んだ。ホーリーも一緒にミルキーのお姉さんになるように努めた。 「ええと、これはヒーリングの効果があるんですね」 「ああ、これは回復効果がある能力だな。これで相手の神姫の精神的ダメージを回復できる、と説明に書いてあるな」 「あと、こちらの本のページにはアロマテラピーと書いてありますが、これはどのような効果があるのですか?」 ミルキーは順調に見たもの、聞いたものを吸収し、自分の知識や経験にプラスしていく。そのスピードはいずるも驚くほどだった。 「すごいね、ミルキーは。どんな知識も自分の物にしちゃうんだもん。ホーリーもそんな能力があったらいいのに」 うらやましがるホーリー。しかしミルキーはそんな彼女に励ましの言葉を送る。 「ホーリーお姉さんもいいところがあるじゃないですか。わたしにはできないことがいっぱいありますし」 「でも起動してそんなに経ってないのに、こんなに覚えちゃうんだからすごいよね。このまま行けばアイドルじゃなくてナースになったりして」 三人がお世辞を言い合っているとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。 「お客さまですね」 「そうだな、ちょっと見てくるからここで待ってるんだぞ」 いずるは玄関に来て客を迎え入れた。 「やあいずる、久しぶりだな」 客は恒一だった。心なしか少し元気がないように見える。 「恒一、お前大丈夫か?」 「ああ、今のところはな…。今日は少しばかり気分転換したいと思ってね」 いずるは恒一を部屋へ招きいれた。中に入った恒一は見覚えのない神姫=ミルキーに注目した。 「お前、新しい神姫を購入したのか?」 「まあね、話せば長くなるけど…」 いずるはミルキーを手に乗せて、恒一に見せた。 「始めまして恒一さん、わたしはミルキーといいます」 「は、始めまして…俺は木野恒一。よろしく」 なぜか照れる恒一。彼女のかわいらしさにドキドキしているのかも知れない。 「ところで恒一、シュートレイの様子はどうなんだ?」 いずるがシュートレイのことを話題に持ち込むと、恒一の表情が曇った。 「それが…」 どうやらシュートレイは前と変わらない様子らしい。 「そうだ、まだ時間があるからシュートレイのお見舞いに行ってみようか?」 いずるの提案にホーリーとミルキーは賛成した。 「いこう、シュートレイのことが心配だし」 「わたしもシュートレイさんに一目会ってみたいです」 「よし、決まりだな。みんなでシュートレイのお見舞いに行こう」 元気のない恒一を尻目に、いずる達は神姫研究所へ行く事にしたのだった。 電車に揺られて数十分、いずるたちは町外れにある神姫研究所にやってきた。この隣には、神姫たちのメンテナンスや療養をする『病院』が隣接している。シュートレイは神姫研究所付属の病院に入院しているのだ。 「知らなかったな~、ここの隣に病院があるなんて」 「私もここの隣に新規の病院があるなんて、つい最近まで知らなかったんだ。何せ、規模が小さいからね」 さっそく中に入ろうとする一行だが、入り口で誰かに呼び止められた。 「あら、いずる君に恒一君。みんなでシュートレイのお見舞い?」 声の主は小百合だった。彼女も病院に出入りしていたのだ。 「小百合さん、こんにちは。これからシュートレイの様子を見に行こうと思って」 「そう、でも酷なことをいうけど、彼女の回復はかなり遅れてるから、暫くはこのままの状態が続くと思うわ」 少し残念そうに現状を語る小百合。その直後、いずるの肩に座っているミルキーに目がいった。 「あら、この神姫、ニューフェイスね。新しく購入したの?」 「始めまして小百合さん、わたし、ミルキーと申します」 すかさず挨拶するミルキー。それを見た小百合は感心した。 「あらあら、礼儀正しいのね。ところでこの神姫、どうしたの?あなたはあまり神姫のことが好きじゃなかったはずだけど」 「話せば長くなりますが…」 いずるはミルキーがどのように自分のマスターになったのかを説明した。 「あははははっ、そう、そんなことがあったの。さすがいずる君のお母さんだわ。自分の息子に神姫を送るなんて」 「しょうがないですよ、送り返したら何か言われそうですし。それに、もう一人増えても家族が増えるだけですから」 いずるの意外な言葉に、小百合は思わずふふんと鼻笑いした。 「いずる君、最初会ったときとは印象がまるで違うわ。これもホーリー効果、ってことかしら」 ちょっと意地悪げに言う小百合。 「そ、そうですか…」 「そう、それにしてもこのミルキーちゃん、結構賢そうね。やっぱりオーナーに似てるのかしらね」 ミルキーをまじまじと見つめる小百合。 「それで、この子の成長ぶりはどうかしら?上手くいってる?」 「はい、いつも借りてきた医療関係の本などを一生懸命読んでます」 ミルキーの急激な成長振りを説明するいずる。そのとき、急になにかがひらめいた感じになった小百合は、いきなりいずるに話しかけた。 「そうだ、シュートレイに会う前にちょっと研究所に寄ってほしいの」 「研究所って、どうしてですか?」 「いいから、ちょっと説明することがあるのよ」 小百合はいずる達を無理やり研究所に引き込んだ。 「で、何をするつもりですか?」 「さっきミルキーが医療関連の本を読んでたと言ってたわね。もしかしたら彼女に精神医療の知識があるんじゃないかしら」 「でも、読み始めてからまだそんなに時間が経ってませんし、もしあったとしても、治療なんてできるかどうか…」 「まあ、これを見てからでも決めるのは遅くないわ」 小百合は引き出しの奥から小さい箱を取り出した。 「これは…、何ですか?」 「これは精神医療用の『ヒーリングバトン』といってね、神姫や他のロボットの精神を安定させる、いわば『精神安定器具』といったものね」 これを見た恒一はすぐさまバトンの側に近づいた。 「どうしてこれがあるのを黙ってたんだよ?」 「これは普通の神姫では扱えないの。使い方がシビアだから、ある程度医療関係の知識がないと使えないのよ」 ミルキーはバトンが入った箱の近くに近づき、バトンをじっと見つめた。 「いいんですか、わたしがいただいても?」 「それを持つかどうかはあなた次第よ。もしバトンを持つつもりなら、あなたの能力を借してほしいの」 小百合はバトンを取り出した。 「…どういうことなんですか?」 ミルキーの質問に、小百合はこう答えた。 「いずる君から聞いた話だと、あなたはある程度だけど医療関係の知識を身につけてるようね。それに加えてあなたの能力は回復系、つまり癒しの力があるから、相性は抜群なのよ。だからお願い、シュートレイを助けてあげて」 ミルキーは暫く考えてから、答えを出した。 「分かりました、わたしにしかできないことならばやって見ます」 「それじゃあ、これを使えばシュートレイはもとに戻るんだな?」 再び割ってはいる恒一。しかし小百合は少し心配そうに答えた。 「恒一君、たとえ元に戻らないとしても、後悔しないことを約束できる?この作業はとてもシビアで、たとえ直ったとしても、完全に戻る確率は5割にも満たないわ。最悪の場合、リセットしなければいけないかもしれない。それでも彼女を救う気持ちはある?」 小百合の質問に、恒一は静かに、しっかりと答えを出した。 「ああ、よろしく頼むよ」 つづく もどる 第十一話へGO
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2290.html
6th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~1/3』 携帯電話には携帯ショップがあるように、武装神姫にも神姫専門ショップが存在する。 神姫センターと呼ばれる店舗だ。 そこでは神姫やパーツの購入、検査、修理を行うことができ、またバトル用の筐体を初めとして様々な設備 (神姫 “で” 遊ぶためだけでなく、神姫 “が” 遊ぶためのものまである) が揃っている――らしい。 竹さん曰く、とにかく神姫のことで困ったらとりあえずここに立ち寄ればいいのだとか。 しかし、俺が神姫を購入する店としてボロアパートから比較的近いヨドマルカメラを選んだように、近所に都合よく神姫センターがある、なんてことはなかった。 (ヨドマルを選んだ理由は他に、姫乃と同じ場所で買いたかったとか、ポイントが貯まるとかそんなものだ) いくら神姫がそこそこの人気を誇るとはいえ、携帯ショップのようにどの町にも神姫センターがあるのかといえば当然そんなことはなく、主に新幹線が停車する主要な駅の側くらいにしかない。 だから、ボロアパートから徒歩十分の工大前駅、そこから電車で二駅のところに神姫センターがあるのはまだ良いほうだと言える。 ジャスコのような大型店舗がどーんと聳える代わりにゲームセンターもないような田舎だと、神姫バトルは専ら室内の手作りスペースで行われ、強者になると例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「ちょっ!? やめてよ!」 だろうとお構いなし、熱く燃えたぎるハートはお巡りさんに声をかけられるまで冷めることはないという。 よいこのみんな、こんなオトナになっちゃダメだゾ☆ さて。 勿論俺達が (主に姫乃が) 野外プレイなどという破廉恥な真似をするはずもなく、今は竹さん、または鉄ちゃんこと竹櫛鉄子さんの案内のもと、神姫センターへ向かっている最中だ。 用事はもちろん、神姫バトル。 俺の眉間に穴を空けたニーキにギャフンと言わせるための、復讐の輪舞曲。 俺に代わって悪魔に鉄槌を下す戦乙女は―― 「ふふっ、神姫センターってどんなところなんでしょうね! 楽しみですね、マスター!」 胸ポケットから顔を覗かせたエルは今朝からずっとこの調子で、大好きなアニメの劇場版を観に行く子供のようにはしゃぎっぱなしだ。 もうちょっと、ほんの少しでいいから緊張感というものを持ってほしい。 それに、せいぜい 15cm 程度とはいえその体の中にギッシリと機械部品を詰め込んだ神姫がポケットの中で動くと服が引っ張られて首が痛いのに、ご機嫌斜め上のエルはそんなことはお構いなし。 首も痛いが、周りの乗客の目も痛い。 「あーわかったわかった。 もうすぐ電車降りるからせめてそれまで静かにしててくれ (ひそひそ)」 「了解です。 ところで我がマスター (ひそひそ)」 「どうした我が戦乙女よ (ひそひそ)」 「私、マスターはてっきり “そういうこと” に無頓着な人だと思ってました (ひそひそ)」 「なんだよ、そういうことって (ひそひそ)」 「ここからだとよく見えるんですが、ちゃんと鼻毛の処理をしてるんですね (ひそひそ)」 「余計なお世話だ!」 「背比うっさい」 「はい……怒られたじゃねぇか (ひそひそ)」 「それはそうですよ。 電車の中ではお静かに (ひそひそ)」 「てめっ! こ、こほん…………後で覚えてろよ、全力でくすぐり倒してやる (ひそひそ)」 ヨドマルカメラの売り子として起動されたエルはほとんど店の外に出たことがなかったらしく、神姫春闘事件後の花見やボロアパートへ帰ってからはずっと、元から丸い目をさらに丸くして輝かせていた。 見るものすべてが珍しい。 目に映るものすべてが面白い。 その日の夜は唯一の所持品だったクレイドルも使わず 「今日はマスターと一緒に寝ます。 いいですよね」 と俺の枕元に横になり、タオルハンカチをかけて眠っていた。 そんなんで眠れるのか心配だったのだが、その一日はエルにとっては世界が変わるような一日だったからなのか、ベッドから落ちることもなく、ぐっすりとバッテリーが枯渇するまで眠っていた。 (一日動きまわった上にデータ整理にかなりの電力を食ったらしく、素のアルトレーネ型の抑揚のない声が耳元で 『バッテリー容量が不足しています。 すぐに本体をクレイドルに寝かせて充電して下さい』 と言った時は心臓が止まるかと思った) そういったわけでエルは今日が神姫センターデビューデイとなるのだが、このテンションの高さの理由はそれだけではない。 「ところでマスター、どうですか? 似合ってますか? (ひそひそ)」 「なーにが 『ところで』 だ。 いくら似合ってたって、そう何度も何度も同じこと聞かれちゃ 『似合ってない』 って答えたくなるぞ (ひそひそ)」 「こういう時は素直に 『似合ってる』 って言えばいいんですよ。 何度でも 『似合ってる』 って褒めちぎればいいんですよ (ひそひそ)」 神姫は基本的にマスターの好みで服を用意しなければ素体のまま過ごすことになり、“素っ裸”に見えないように素体にペイントが施されていたり細かいアクセサリが付属していたりする。 アルトレーネ型の場合は豊かな胸から臍より上の辺りまでを濃い青でペイントされ、首元と腕、脚はそれぞれ純白のカラー、ロンググローブ、サイハイソックスだ。 おまけにショーツはガーターベルト付きのようなデザインで、以上、その他の箇所は素肌を露出している。 ここまで挑戦的なデザインに加えて癖のある長い金髪は狙いすぎな感があるにもかかわらず安っぽい扇情さは無く、気品すら感じられるデザインには脱帽するばかりだ。 しかし今日のエルは一味違う。 いくらペイントが施されているとはいえツンツルテンな素体の上に、鉛色の革製ロングコートと、同色のブーツを纏っているのだ。 しかも驚くことなかれ、このコート、ただのコートではなくエルのためだけに作られた世界で一着の特注品なのだ。 ロングコートと言えば野暮ったく聞こえるが、素体の各所にあるくびれにフィットするよう作られているので、出る所は出て締まるところは締まり、よりアルトレーネ型の体のラインを強調している。 右腕の部分は何故か肩から先が無く、また左腕部の袖にはまったく意味を成さないベルトがぐるぐると五本ほど巻かれており、この左右非対称デザインに製作者の趣味が溢れ出ている。 足首まで伸びるスカート部は臍が十分見えるほど大きく前が開かれており、これがもし臍の下から開いているとエルがただの痴女になってしまうことも完璧に考慮されている。 このスカート部にもベルトがぐるりと数本巻かれており、さらに腰に二本、胸を上下に挟んで強調するように一本ずつと、とにかくベルトが多い。 エルがアルトレーネ型だからこそ着こなしているものの、これが他の神姫、例えばあの武士と騎士だったら……似合う似合わない以前に、顔が濃い…… 手に取ってまじまじと見るとその出来の良さに驚かされるばかりの逸品で、これが手作りと聞いたときはさすがに製作者の言葉を疑ってしまったのだが、睡眠時間を削りに削ったその製作者、一ノ傘姫乃の目の下の大きな “くま” はすべてを物語っていた。 (裁縫のことはサッパリ分からないのだが、姫乃の握力では革に針を通せないことくらいは想像がつく。 かなりパワフルなミシンとそれを扱う腕が必要なはずだが……) コートと同色のブーツは女性が好んで履きそうなものとミリタリーオタクが好んで履きそうなものの間を取ったようなデザインをしており、お洒落にもバトルにも使用できる優れものだ。 さすがにブーツまで手作りとはいかないものの、 「鉛色のコートに白の素足って、なんだか卑猥な感じがするの」 と姫乃がニーキのお下がりをプレゼントしてくれた。 これらを受け取って一式装備したエルはしばらくの間、調子の外れた鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズをとるのに夢中になっていた。 ヨドマからクレイドルだけを持って俺のところへ来たため新品のアルトレーネ型が持つはずの装備すら持っていないエルに何か買ってやらないと、と考えていたのに、肝心の財布には生活費が残るのみで、単なるおしゃべりフィギュアと化していたエルを立派な武装神姫にしてくれたのが自分の彼女だという事実は、 「マスター! とってもいい彼女さんを持ちましたね!」 と満開の笑顔で言ってくれるエルの言葉と一緒に俺の自尊心をグリグリと抉った。 コートが完成したのは今朝のことで、朝九時頃にパジャマ姿で俺の部屋を訪れてエルに試着させて微調整を終えた姫乃はそのまま俺のベッドに倒れこんでしまった。 そのまま可愛らしい寝息をたて始め、服といえば第三のヂェリーTシャツだったエルがどんなにはしゃいでも、姫乃の寝顔鑑賞を邪魔するように竹さんが俺達を迎えに来ても、姫乃は午後二時まで身動きすらしなかった。 そして遅めの昼食を三人で済ませて今に至る、というわけである。 「傘姫大丈夫なん? まだ目の下がパンダっとるし、フラフラしよるけど、別に神姫センター行くのって今日やなくてもいいんやろ?」 「さっき十分寝たから大丈夫よ。 エルはせっかく今日を楽しみにしてたんだから連れて行ってあげないとね。 それに今日を楽しみに待ってたのはエルだけじゃないのよ。 ね、ニーキ?」 「……」 姫乃の今日も変わらぬカッターシャツの胸ポケットで大人しくしているニーキは何も言わず、車窓の外を眺めていた。 このニーキも、今日は素体のままではなく服を着ている。 これがまた姫乃オリジナルらしいのだが、その姿を見たときはエルのコートと並べて姫乃の趣味を少しだけ理解できたような気になった。 燕尾服である。 オーケストラの指揮者が着るような、読んで字の如く裾が燕の尾のような形をしたアレだ。 エルのコートとは違い大幅なアレンジは施されておらず (細かいこだわりはあるのだろうが、そもそも俺は燕尾服に詳しいわけではない)、取り外し可能な空色のツインテールがなくなってショートカットとなった悪魔型は男装の麗人型へと進化を遂げていた。 ニーキの冷静で淡々とした雰囲気と相まって、その端麗な容姿は華やかさを除けば宝塚のトップスターのようだと絶賛しても過言ではない。 ……俺が神姫を買うことに随分と抵抗してくれた割に、姫乃は神姫を男装させて眼の保養をしていたってわけだ、へぇそうなんだ、などと嫌味を言うつもりはないけれども。 男にだって嫉妬というものがあるのだと、彼女に知って欲しい背比弧域であった。 「ヒメに面と向かって言い難いのならば私が伝えておこう」 「やめろ。 そして俺の心を読むな (ひそひそ)」 「ほれ、二人とも電車降りるよ。 お~い傘姫生きとる? 寝たら死ぬぞ~」 姫乃のことを傘姫と呼ぶ女性、竹さんは姫乃の高校時代からの親友らしく、この少々独特な方言 (彼女曰く、北九州ベース博多アンド鹿児島アレンジなのだそうだ) はともかくとして快活な性格が外見にも表れていて、大学の益荒男共の評判はすこぶる良い。 いや性格が云々以前に、姫乃が “可愛さと美しさを足して2を掛けた” ような容姿ならば竹さんは “可愛さと快活さを足して1.5を掛けた” ようなものだ。 残り0.5は、身長こそ姫乃と大差無く俺の頭一つ分低いくらいなのだが、姫乃が持ち得ないシルエットのメリハリだ。 寧ろ益荒男共にとってはこの0.5が何よりも重要なのかもしれない。 短くサッパリとした髪に全身を春のシマムラコーディネートで固めていても何ら違和感がないのだから、その戦闘力は姫乃に一歩も引けをとら…… 「ん、どうしたの? 目のくま、そんなに変かな?」 ……いや、やはり姫乃のほうが圧倒的に可愛い。 アルティメットカワイイ。 ヒメノ型神姫とか発売されないだろうか。 いや、ここは竹さん風にカサヒメ型といったほうがそれらしいか。 「ほれ、あの建物。 まるまる一棟が神姫センターなんよ」 俺がカサヒメ型に自分のことを何と呼ばせてどんな武装をさせるか妄想を膨らませているうちに、何時の間にやら俺達一行は神姫センターの近くまで来ていた。 ――とりあえず、カサヒメ型の姉妹機はセクラベ型で保留としておこう。 神姫センター一階はさすが専門店というだけあって、ヨドマルとは比べ物にならない商品の充実っぷりだ。 客の相手をする神姫もヨドマルよりはるかに多く、ほぼ全種類の神姫が小さな体を元気一杯動かしているのを見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだ。 「ほらマスター見てください! アルトレーネ型がいますよ! うわぁ隣にアルトアイネス型もいます! ちょっとお話ししてきていいですか? いいですよね! 行ってきます!」 勝手にポケットから棚に飛び降りたエルは完全武装のアルトレーネとアルトアイネスのほうへ走っていった。 そういえばエルは “動いているアルトレーネ” を見るのは鏡に映る自分を除いて初めてになるのだろうか。 今まで店員として働いていたエルが今日は客なのだからはしゃぐのも多めに見てやるが、あまりウロウロされると姫乃クオリティが目立って目立ってしようがない。 「あのアルトレーネのコスプレかっけー。 ここコスプレの服とかも売ってんのか」 「下の中古売り場にあるんじゃね? でもクソ高そー」 「うわまた懐かしいものを。 なんだっけあのコート。 ほら、三〇年くらい前のFFの」 「クラウドでしたっけ? 流行りましたねーあれ。 でも似てますけどコートは着てなかったような」 まあ、褒められて悪い気はしないけれど。 これでは落ち着いて店内を見て回ることもできない。 それに今日は姫乃と竹さんもいるのだからあまり出過ぎた行動は――と二人の方を見ると、何故か竹さんの前に人集りができ、エル以上に衆人の目を集めていた。 「あー今日は神姫連れてきとらんからバトルはまた今度、また今度、だからまた今度っつっとんのやから並ばんでよ! なーらーぶーな、前へならえすんな! 予約なんか受け付けとらんっての! どさくさにアドレス渡されても困るってのアポ取ろうとすんな!」 竹さんの前に老若男女問わず並んだ人達は武装した神姫を連れていて、神姫達は皆武装の確認をしたり素振りをしたりと落ち着き無く、マスター共々鼻息を荒くしていた。 ほら散った散った、と大人気な竹さんが人々を追い払い、やれやれと大きなため息をついた。 竹さん大人気の理由を姫乃が教えてくれた。 「鉄ちゃんってね、実はすっごく強い神姫マスターなのよ。 以前私をここに連れてきてもらったときもこんな感じだったわよね」 「いっつもそう。 これじゃおちおちメンテもできんもん。 そらまあ、私のコタマはそこそこ強いしバトルしたくなるのも分からんでもないけど、そんな何人も相手にできるかっての。 コタマのバッテリーは普通の神姫と変わらんっての」 「へぇ、竹さんってそんなに強いのか」 「うん。 たぶん今この神姫センターにいる誰よりも強いわよ」 「ここって……結構な人数だぞ?」 うんうん、と頷いた姫乃は自慢できる友人がいることが嬉しそうだ。 「あー傘姫、恥ずいからあんまし……」 「私も他の人に聞いた話なんだけどね、ここで大会が開催された時のことらしいんだけど」 「その大会の優勝者が竹さんってわけか! すげぇ!」 「ううん、鉄ちゃんは観戦してただけなんだって。 それでね、その時優勝した男の人が表彰台の上から鉄ちゃんを見つけて、一目惚れしちゃったらしいのよ。 その人が、たぶん優勝して少しだけ気が大きくなってたんでしょうね、その場で鉄ちゃんに告白したんだって。 そうよね?」 「……まぁね。 告白っつーか、私のこといきなり指さして 『今! あなたに惚れました! エンジェルktkr!』 やもん。 恥かいたわあ、あん時はほんと」 「でも竹さんに彼氏がいるって聞いたことないし、ってことはそいつのこと振ったのか」 「背比、今しれっと傷つくこと言ったね……振ったっつーか、その場のノリで 『じゃあ神姫バトルで私に勝ったら付き合ったげる』 って言ってしまったんよ。 うん、ノリで」 ノリノリで。 と竹さんは額を抑えて自分に呆れている。 それはそうだ。 大会優勝者、言うまでもなく最強の神姫に勝負を挑むなんていくらノリといっても愚行にも程が……ん? 「でも竹さん、彼氏はいないって……あれ、どういうことだ?」 「その場におった全員がチャンピオンが勝つって疑いもせんで、チャンピオンに挑んだ私は負けて彼氏ゲットする腹積もりと思われて、そのチャンピオンの神姫にまで 『ま、アタシのマスターはそこそこイイ男だし? アンタが考えてることも分かるよ。 それなりに手加減してやるから、適当に頑張って適当に負けて、彼氏ゲットしたら?』 って鼻で笑われて――」 眉間に皺を寄せてその神姫の嘲りを腸を煮えくり返しながら思い出しているらしい竹さんは口角を釣り上げ、凄絶な笑みを作った。 「――そんな状況で相手を完膚無きまでたたきのめすのって、ゾクゾクしたわぁ」 「ドSだ! ここにドSがいる!」 「相手の神姫、花型ジルダリアだったんだけど、手加減どころか指一本触れられずに負けてそれ以来トラウマになっちゃったんだって。 ちょっと可哀想」 「そうなん? それは知らんかった」 「未だにハーモニーグレイスを見ると足が竦んで動けなくなっちゃうんだって」 「 【 あらららら それはひどいな 超wざwまwあw 】 」 「ドS俳句だ! 姫乃気をつけろ、竹さんの近くにいたらそのうちヤられるぞ!」 「ふひひひひ! 悪いけど傘姫の体は私がもらっとくよ!」 「このっ、俺の姫乃を食うつもりか!」 「何の話よ!? やめてよ、もう!」 「ただいま戻りましたーって、なんだか楽しそうですね。 私も混ぜてください!」 「…………はぁ」 姫乃の胸ポケットの中でニーキが漏らした深いため息は誰の耳にも入らなかった。 神姫センターは二階から上が武装神姫専用のゲームセンターになっていて、神姫を連れたマスター達が百円玉を何枚も持って遊んでいる。 その中でもやはり二階のバトル用筐体はプレイヤーとギャラリーが多く、どの筐体でも神姫達がマスターやギャラリーの応援を受けて火花を散らしていた。 ビリヤード台に四角形のガラスケースを置いたような外観をしていて、大きさは四方が2m弱から1mくらいと大小様々なものがあり、高さも神姫が飛びまわるのに十分なものだ。 ガラスケースの中は何もなかったり障害物があったり、廃墟、砂漠、滝、サーキット、礼拝堂、無駄にピカピカ光るステージなど、神姫達は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「しつこい!」 どのような状況であっても冷静に地形を生かす戦い方が求められる。 「お、そろそろ障害物無しの一番シンプルなステージが空くけど、なんか他にバトりたいステージある?」 「エル、どうだ?」 「どんなステージでも問題ありません。 どーんと来いです」 「ニーキは戦ってみたいステージある?」 「いや、私もどこでもいい」 「よし。 じゃ順番取ってくるから待っとって。 筐体使用料はまぁ、今回は私が奢ったろ」 今まさにその筐体ではバトルが佳境を迎えていた。 ありったけのミサイルを全方位に撒き散らす軍隊風の眼帯神姫は、夏の蚊のように襲い来るミサイルを涼しい顔で回避しつつ接近してくる忍者神姫に翻弄されている。 眼帯神姫がまだ起動して日が浅くバトルに不慣れなのは、筐体のガラスに張り付いて必死に応援しているマスターを見れば分かる。 彼女のマスターはさっきから 「撃て撃て撃て! 数打てば中るんだ!」 とだけ繰り返して眼帯神姫を混乱させるばかりで、もう一方の忍者のマスターは椅子にもたれ掛かり余裕綽々といったところだ。 次は俺達の番だ、あんな無様な真似はできない。 そう思うと掌がじっとりと湿ってきた。 相手は姫乃とその神姫なのだから気負う必要なんてまったく無いのに。 勝利への焦燥と敗北への焦慮は刻一刻と強くなっている。 「いよいよ私達の初バトルですね、マスター。 安心して下さい、絶対に勝ってみせますから!」 エルが俺を励ますように力強く宣言した。 その顔には一片の気後れもない。 俺はほんとうに良い神姫に巡り合えたと思う。 普通に神姫を買って、普通に箱を開けて、普通に起動して。 そんな出会い方ではきっと俺は満足できなかった。 このバトルを、これまでエルを育ててくれたレミリアへの感謝と代えよう。 「頼むぜエル。 悪魔に鍛えられたお前の力で、あの偏屈神姫をギャフンと言わせてくれ!」 「了解ですマスター! 戦乙女の名にかけて必ずや、マスターに勝利の美酒を御賞味頂きます! ――ところで、その、私の武器なんですけど、ばっちり用意してくれましたか?」 コートの左袖のベルトをいじりながらそう言って、申し訳なさそうにこちらを見上げた。 ヨドマルで働いていたエルは普通アルトレーネ型に付属するはずの剣などを持っておらず (だからこそ俺のような貧乏人が最新型を買えたのだが)、俺が武装を用意しなければならない。 防具はエルを買った時に姫乃に 「私が用意するから大丈夫。 だから絶対に他のものを買わないでね」 と念を押されて今朝になってコートとブーツをもらい、武器はというと―― 「ばっちり用意しておいたぜ。 戦乙女に相応しいやつを見繕ってきた」 「それなら早く見せて下さいよぉ~。 マスターはあんまりお金が無いから、もう私、言い出しにくくて。 素手で頑張れ! なんて言われたらどうしようかと思ってました」 「はっはっは、すまんすまん。 でもほら、自分の神姫を驚かせたいマスター心を分かってくれ。 ええと……」 鞄に入れていた “それ” を、目を輝かせて 「早く早く!」 とせがむエルに渡してやった。 「ほれ、コイツで頑張ってこい!」 「はい! マス…………た…………………………………………ん?」 筐体では丁度バトルが終わったようで、忍者が彼女のマスターに向かって親指を立てるのを見届けた竹さんが俺達を迎に来た。 「場所空いたけど、傘姫、背比、準備OK?」 「私達はオーケーよ」 「こっちもオーケーだ。 ニーキはもういいのか? まだ遺書の用意ができてないんじゃないのか?」 「問題無い。 エルを倒した後で君の眉間を蜂の巣にしてやるから、今の内に神に祈っておくといい」 「え? え? マ、マスター? こ、これは冗談ですよね?」 「よっし! それじゃ、二人とも両側に座って、そこの丸いとこに神姫を乗せれ」 「姫乃、こんな上等なコートを作ってもらっといて悪いけど、手加減はしてやれないぜ!」 「私だって全力でいくからね、弧域くん!」 「いや、ちょ……………………ええええええええ?」 ――――そして話はプロローグに戻る。 NEXT RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~2/3』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1209.html
武装神姫のリン 第21話「想像…そして行動」 …ここは? 私は何も無い…どこなのか 分からない場所に一人。 ふと視線を自分の身体に移すと…全裸、一糸まとわぬ姿に驚きつつも私は懸命にそこを抜け出そうと歩き出そうとします。 「リン」 突然マスターの声が聞こえました、私は振り向こうと…後ろからマスターに抱きしめられました。 そこで私の中に疑問が生まれます。 私は武装神姫。人間とは身体の大きさが根本的に違うのでこの様な事象は起こりえません。 なのに、ここでは私とマスターが同じ大きさの身体を持っている。でも今はそんなことを気にしている暇はありません。 私は状況を聞こうとするのですが、その前に唇を奪われていました。 マスターとの初めての大人のキス。唇の触れあいだけでなく舌をからめてきて、吸われました。 思わず私も自ら舌を絡からめて、ねぶり、吸ってマスターの舌を味わいます。マスターとのキスに必死で他のことなど考えられません。 やっと名残惜しそうに2人の唇が離れます、その間には銀色の糸が… 「マスター」 「リン、愛しているよ。」 そうしてマスターは私の首筋にキスを、そしてその舌で私の素肌をすこしづつ愛撫していきます。 首筋から肩へ、肩から腕へ。マスターの舌が移動するたびに今まで感じたことの無いような快感が私の中を駆けめぐります。 「う…ん、ぁん。マスタ、そこはぁ。」 「ここか?」 とても気持ちいい場所をさらにねっとりとなめられ、私の頭中はマスターでいっぱいになっていきます。 ついにマスターの舌が私の乳房に、そして先端にたどり着きました。 ゆっくりと全体をなめられてちょっと先端を唇で包まれたと思えば、上下左右に弱く引っ張られます。 「マス…たあぁん、ダメですぅ」 「まだまだリンの全部どころか半分も味わってないんだ。先は長いぞ?」 「で、でも、刺激が…つよすぎてぇ!!」 「気持ちいいなら、イっていいんだぞ?我慢は身体に悪い」 「そんな、マスターの目の前で…」 「いつもそうだろ?」 その言葉をきいた瞬間。私の膣から愛液が関を切った様に流れ出て股間を瞬く間に濡らしていきます、そしてそれは私の太股を伝って落ちていきました。 そしてマスターの脚に付きます。そこでやっと、ちゅぽんという音を立ててマスターの唇が私に乳首から離れました。 「一気に出たな、それで良いんだ。俺で感じてくれてるって一番よく分かる。」 「でも、ちょっとは加減というものを」 「しかたないだろ?俺はリンが大好きなんだから。」 「でも、でも!優しくしてくれないのは、嫌です。」 「…すまない。これからは優しくするから、な?」 「約束ですよ、破ったらアレをこうして、ああしてでも止めますからね」 「…分かった。」 さすがに私のジェスチャーに、マスターの血の気が少々引いみたいですが問題は無いでしょう。 ちょうどいいインターバルになると思ったのですが、マスターはすぐに私に覆い被さってきました。 「え?マスター?」 「優しくするけど、いつもとは違うことをするからな。」 「ぁん」 そう言って、マスターはあろうことか私の…秘部から流れる愛液を指ですくい、その指でおしりの穴の周りをなでるように動かしてきたのです。 「そんな、おしりだなんて…」 「リンは嫌?こういうの」 「嫌いとかそういうわけではありませんが、でもやっぱり好んでするというわけでも…ぇ?」 「やっと分かったか? そんなこと言ってても身体はちゃんと反応してるんだよな~」 見ると私の股間はさらに大量の愛液が溢れ、おしりの方にも流れています、それが潤滑剤の役割を果たして、ついにマスターの指が私のおしりの穴に…ずっぷりと根本まで埋まってしまいました。 「そんな、全部入ってる」 「まさかこんなにすんなり行くとはなぁあ、そっか神姫は排泄しないから内部まで内側がつるつるなんだ」 「ま、マスタァー!! そんなにいじらないで…」 たしかにするするとマスターの指が動くのを見て、私自身ももしかしたらマスターのも大丈夫かも…と思ってしまいました。 そこでにやけるマスターの顔。 「? リンはおしりに欲しいのか?」 「そ、そんなこと無いデスよ」 私は必死に表情を悟られまいと顔を背けますがマスターにはお見通しだったらしいです。 「じゃあまずはリンにおしりで…いや、口でしてもらっていい?」 「口…ですか」 私もそろそろ受けるばかりは嫌だと思っていたと所だったので良い機会だと思いました。 「じゃあ、失礼します」 そうして私はいつもより小さな(ちょっと失礼?)マスターのモノを口に含み…いつもは舐めることしか出来なかったために、先端がのどの奥まで到達してしまい、むせてしまいました。 なんとかマスターのモノを口から出して、それでもせきが止まりません。 「リン!大丈夫か?」 「げふぉ、ごほ、マスターすみません。慣れなくて…」 「いや、俺が悪いんだ。すまない。」 「ええいえ、やらせてください」 マスターの返答を待たずにわたしはもう一度マスターのモノを口にくわえ、茉莉がしていたのを思い出してそれを見よう見まねで実践してみました。先端を舌で円を描くように舐め、吸っていきます。 「リン、それすごすぎっ」 マスターの反応は良好の様でした、さらにいちど口から出したモノを根本から先端まで舐め上げていく同時にマスターのふくろを右手で優しく揉んでいきます。 そしてもう一度先端から根本に戻り、揉んでいたふくろをでいるだけ口に含んで、優しく甘噛みしたり舐めたり。そうしているうちに限界に近づいたらしいので、ふくろを攻めるのをやめ、再びモノを口に含んで先ほどと同じく吸ってあげました。 ついにマスターは絶頂を迎え、私の口内にはマスターの精液が大量に流し込まれます。 やっぱり精液の味はおいしいと言えるモノではありませんが、不思議と幸せを感じるのです…私って変なのでしょうか? 「う~さっきはかなりやられたってかんじだった。リン、上手いな?」 「いえ、マスターのことを思って一生懸命にさせていただいただけですし。」 「でも精液を全部飲み干すなんてな…このエロラーフが」 「…なんですか!その"エロラーフ"って」 「あ~某サイトとかでエロぃ格好(露出の度合いが基準というわけではない)したストラーフの写真掲載されてて、そういうストラーフのことをそう呼ぶらしい。で当然ながらリンもそこでエロラーフ認定を受けてるんだ」 「は?そんなぁ」 「まあリンは衣装とかじゃなくて別の方向でも十分エロぃしなw」 「もう! この後させてあげませんよ?」 「あ~すまんすまん。そろそろ挿れていい?」 「…あの、分かってて言ってますよね?」 「一回でいいからリンのおねだりを聞いてみたいんだが…隠語満載の」 「……言わないとだめですか?」 「言って欲しいな。」 もう私の顔が真っ赤になってるのは分かってるんだと思います。 でもマスターは優しい人だから…その優しさがにじみ出るような笑顔には勝てないんです… 「マスター…」 「うん?」 「わ、私のおま○こをマスターのおち○ちんでぐちゃぐちゃにしてください…」 「……」 マスターの顔がうつむき、表情が見えなくなりました。 「マス…きゃぁあ」 マスターは急に私の身体を抱き上げ、犬のようなポーズにさせて、私の膣へそそり立ったモノを挿入してきました…その大きさと感触(?)に私は嬌声を上げずにはいられません。 「ふぁあ、あぁん、そんなに突いちゃ…だめれすぅ」 「まさかあれだけ過激に言ってくれるとは思わなくて、それで我慢できなくなった」 「こんなにぃ…激しくされたらぁ!」 その間もマスターのモノは私の腔内を出たり入ったり。しかもバック体制なので感じる部分が違う…おしりに近い側の壁がカリの上部につっかかる、そこが気持ちよくて… 「マスタ…もっと突いてぇ!」 「っ、もっと?」 「もっと、ください。」 「こうか?」 「!!そうですぅ」 ピストン運動は次第にモノを上下左右に揺さぶる様にして突いて来るようになり、それも私には未経験の刺激であったのでマスターが上り詰めるまでの間に2回も達してしまっていたのです。 そして3度目の絶頂が来るかと思われた瞬間。私はこう叫んでいたのです。 「私はマスターを愛しています、だからマスターのためになら、おしりだって捧げますぅ!だから。次はおしりにぃ!」 「ああ、とりあえず出すっ」 「マスたぁ…おもいっきり、出して…くださぃ」 私の膣内に勢いよく精液が溢れ、結合部から流れ出ます。 今までの2回とは比べものにならない気持ちよさでした。その快感は久しぶりだった私の意識をそのまま闇の中へ誘って行きました… …ここは? 私は何も無い…何処なのか分からない場所…などではなく。 いつものベッドにさっきの犬のような体制が崩れたポーズでうなだれるように横たわっています。 右手には…オーダーメイドでマスターのモノを1/10サイズで形、感触その他諸々を再現したディルドー。 そして左手は…なぜかティアの手を握っているのです。 そしてティアの顔はと言うと私の胸の前、そしてティアの唇からはみ出ているよだれ…全てを理解してしまいました… 私ったら、マスターのモノを同じ形のモノを手に入れてティアと試していたはずなのに。 気持ちよくてイってしまって、その感触とかを知らず知らずの間にAI内部での妄想と同調させて夢に見ていたのです。 もちろん感触などのデータは本物の訳で、寝る前に履いていたショーツをべたべたに濡らしていました。 「これはマスターを思う気持ちからすれば必然なのでしょうか…?」 現実に帰ってみれば、マスターと私の身体の大きさが同じになるなんてあり得ないと解っていたのに、それでも想像してしまわずにはいられなかった自分が情けなく、またくやしくなります。 そして無意識かもしれませんが、そんなことがあり得ないと解っていてもそれを望んでいることに、自分のAIが異常をきたしているのではないか…そんな不安を抱えずには居られないのです。 そういえば今夜はマスターは会社に泊まり込みの仕事だと聞きました。 だから今すぐにあの笑顔を見て安心することさえも出来ません。 とたんに不安が私を支配しようとします。 でも、こんなことに負けるわけには行きません。 だって私はリン。いつだって逆境に意志の力で打ち勝ってきた神姫なのだから。 私はシャワーを浴び、お出かけ用の服(シックな色合いのものを選んだつもりです)に着替え、 静まりかえった部屋のPCを起動させてデータを同期。マスターの会社への道筋を記憶しました。 幸いにも、現在の交通機関はコンピューターによる自動制御で24時間の利用が可能になっており。神姫用のサービスも無いわけでは有りません。 あとは、マスターの下へ。最初に目指すのは最寄り駅の「星ヶ丘駅」そこからは交通機関を利用すればすぐにマスターのつとめる会社にたどり着けます。 ただ、駅までは己の力で行かなくてはなりませんが距離にして1Km弱。たどり着けないわけはありません。 私は夏が終わりすこし涼しくなった夜空を見上げ、背に背負ったリアウィングAAU7とエクステンドブースターに全てを預け、夜空に飛び立ったのです。 燐の22 「喪失」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1239.html
考えている、アタシこと豊嶋神無は考えている。誰の事を? それはまあ、彼女・・・じゃなくて彼の事を。 「だってさあ、男の子なんだよ?」 数学の吉田先生の方程式をガードするようにノートを立て置き、そんなふうに呟く。はっきりとしない感情。窓際席ゆえの暖房と、意外に暖かい冬の日差しの二重奏にぼんやりするのとはまた別の、良いような悪いような心地。 微音、叩。 「神姫って普通、女の子じゃないの・・?」 ロウの姿を思い浮かべる。顔の造形は女性的。あまり詳しくはないけれど、普通の神姫と変わりはないように見える。けれど、胸はない。父さん曰く「強化改造の影響」ということらしいけれど、そうじゃない気がする。まあ、男か女かなんて、“下の方”を調べてみればわかるはずなんだけど・・ 「できる訳、ないじゃない・・・」 ただ“その辺り”を見つめるだけだって何か恥ずかしいから、わざわざロウ用のショートパンツ作った位なのに、そんな事したら恥ずかしくて死んじゃうよ。 微音、叩、叩。 「大体、触るのだって怖いのに・・・」 ロウは普通の神姫より頑丈らしいし、その手足、後【背中の手】は大きいけど、首とか二の腕とかなんてちょっと触ったら折れちゃいそうなほど細い。すぐ痛がらせちゃいそうで触れない。でも、あの髪くらいなら触っても大丈夫かな? でも、何かヘンな事言われそうで、それが、また、怖い。 「・・・でも、今日手に触っちゃったんだよね・・・。あんな事くらいで喜んじゃって。そう言えば、ショートパンツあげた時もバカみたいに喜んでて・・・」 微音、叩、叩。軽音、叩、叩。快音、叩叩叩叩叩。 「・・・ってうるさいなあ、さっきか・・・ら?」 その音がした方を振り向く。それは窓の方、よく考えればアタシが窓際、しかもここ3階、つまり人がいる訳ない方向。振り向いたら確かに人は居なかった。でも、“居た”。 快音、叩、叩叩。 「・・カンナっ!」 「・・・え、ロウっ!?」 直ぐさま窓の鍵を外して、そっと開く。と・・・ 「カンナぁっ!!」 「うわっ!?」 急、飛込。回避。 「おりょ!?」 通過落下転倒、横転横転、巻込横転薙倒横転転倒横転、横転横転横転。 「きゃあっ!?」 「なんだぁ!?」 「うわ、机が!?」 横転激突、停止。 「ううううぅう・・・」 「・・・ロウ、あんたって・・・」 窓からアタシ目掛けて飛びかかってきたロウを避けたら、ロウはそのまま教室の中に突っ込んで机を吹っ飛ばし、クラスメイトの足を引っかけ、ホコリを巻き上げながらすごい勢いで転がって、教室の反対側の壁で止まった。ノートも教科書も机も椅子も薙ぎ倒されて、教室はメチャクチャ。クラスメイトのあびきょーかんの声。どういう勢いで飛んできたの、あんた。 「豊嶋さん! これは一体なんです!?」 「あ、吉田先生! ええと、まあ、うちの犬です」 「犬ぅ?」 「あー、いたかった。カンナよけるなよ~」 「犬って、神姫じゃん、これ」 クラスメイトが指摘する。いやまあそうなんだけどそうじゃないと言うか・・・。 「・・・ところでさ、ロウ、何しに来たの?」 「カンナのべんとーとどけに!」 確かに大きな手の中にアタシのお弁当箱が握られてる。とりあえず近づいてそれは渡して貰う。 「・・・で、用が済んだなら早く帰る!」 「は~い!」 疾走、跳躍、飛込、消。 また同じ窓から、ロウは北風みたいに飛び出していく。あんまりに唐突な出来事に、誰も声が出せないみたい。 「・・・ええと、まあ、ごめんなさい」 残りの授業時間は、お説教と教室の片づけだけで終わった。 「まったく、あいつったら・・。夕飯ヌキにしてやる」 「まあ、そのお陰で神無はお昼抜きにならなくて済んだんじゃない」 「このぐっちゃぐちゃの寄り弁見てもそんな事言うの?」 机を向かい合わせにしていた秋子にそう言い返す。ご飯とミニハンバーグとポテトサラダとオレンジが混ざっててすごい味がするんだよ、これ。 「でも、神無が神姫持ってるなんて知らなかった。あ、でも犬飼ってるって言っていたね。それがあの神姫?」 「うんまあ・・・。でもあの武装神姫っていうの? あれはしてないよ」 でも、神姫の事であんまり騒がれるのが嫌だったので、秋子も含めて学校では誰にもロウの事は言ってなかった。神姫って高いらしいから、知られると特に男子が騒ぐんだよね。大体あいつみたいなやっかい者の事を人に知られたら恥だし・・・って遅いかもう。 「確かに、神無がそういう事するようには見えない。まあ、私もそうなんだけど」 「え? 秋子にもいるの、神姫?」 「ええ。兄のお下がりみたいなものが、1人」 「どんな性格なの?」 「可愛いよ、人なつっこくて。でもちょっと頑固な所がある」 「ふうん、うちのロウよりはまともみたい」 「そうでもないのだけど・・。でもそんなに変なの、あの神姫?」 「うん、すごく変。だって“男の子”なんだよ? それに騒がしいしものは壊すしごはん犬食いだし・・・」 「男の子? そんな事もあるの?」 「あるみたい」 「ふうん。でもそう、“男の子”ね・・」 「?」 「なあなあ!! あの神姫って豊嶋のものなんだろ? カッコイイな!」 「へ!? あ、うん?」 突然、甲高い声が耳元を直撃。見上げると居たのはクラスメイトの男子。ええと確か相原武也君(男子の名前なんて全員は覚えてないや)。いきなり馴れ馴れしく話しかけられて、ちょっとびっくりする。 「俺も神姫持ってるんだけどさ、あのハウリン、見た事もない武装だよな? 何処で手に入れたんだ? バトルやらないか?」 「いや、あれ父さんが会社から連れてきた試作品?だから売ってないし、そのバトルってのもちょっと出来ないんだよね。アタシはマスターとか言うのじゃないし」 「え!! 豊嶋の親父って神姫メーカーに勤めてんの? 嘘!? 何か非売品パーツとかも貰えるの!? いいな、俺にも少し分けてくれないか?」 あ、やばい言っちゃった。だから神姫の事言わないでいたって言うのに。 「いや、そういうのはちょっと・・・」 「じゃあ、バトルだけでもしない? レギュレーションがマズイならフリーバトルでいいしさ。あ、もちリアルバトルは無しな、今修理中のパーツがあるしセッティングも・・」 「いやだからムリなんだってば・・・」 なんかよくわかんない単語の連続と、そもそもよくわかんない男子に話しかけられるウザさでちょっと嫌になる。けど相原君のこの勢いをどうやって止めれば・・・ 「・・・私の神姫で良ければ、会わせてあげてもいいわ。直接、バトルは無理だけれど、装備やバトルデータ共有で参考にはなると思う」 「何? 法善寺も神姫持ってるの!? だったら・・今度お前んちに行ってもいい?」 「え、あの、いやそれは・・・」 「お~い武也、体育館行こうぜ!」 「ああ、今行く! じゃあ、法善寺また後でな!」 そう言って、友達に呼ばれた相原君は教室から走り去って行った。 「う~ん、言うだけ言って帰るし。でも、良かったの秋子? あんな事言っちゃってさ」 「・・・私の神姫、ちょっとバトル嫌いなだけだから」 「いやそうじゃなくって相原君を家に呼ぶって話。秋子って、男の子と遊ばないでしょ普段。神姫の事も隠してたんだから、そっちに興味ある訳でもなさそうだし。アタシを庇ったって言うなら後でアタシが断るよ?」 「そうじゃないの。ただ、ちょっと相原君に興味があるだけ」 「・・・あ、なるほど。秋子って相原君好きなんだ」 「・・ちょっと、興味があるだけだって」 クールな秋子が珍しくしおらしい顔を見せる。そういうのまだ興味ないんだって思ってた。でもそんな事も無いよね。 「うん、わかった。出来る事があったら応援するよ」 「それはいいけれど、神無は、自分の事も考えた方が言いよ」 「へ? どういう、意味?」 「え!神姫での犯行だったんですかあの窃盗!!」 豊嶋甲の裏返った声が、BLADEダイナミクス第4研究部に木霊する。周りの部下に変な目で一瞬見られるが、部長が変なのはいつもの事と、すぐに視線は消える。 『ああ、私がずっと犯人を追っていたんだ。そちらの方は処理出来たんだが、それよりちょっと気になる事があってな』 甲がパソコンに写した複雑な面持ちを知ってか知らずか、ボイスチャットの相手は少し重い声色に変わる。 「気になるって、もしかして犯行に使われた武装神姫の事ですか、“ファナティック”さん?」 甲は画面の向こうの低い電子音の主、ネットハッカー“ファナティック”に問いかける。“彼”はハッカーとは言え通常のそれとは毛色が違い、メーカー等関係者への有用な情報提供、ネットに漂う違法神姫サイトのクラッキングなど、MMS、特に神姫を守護する存在として有名だった。甲自身も研究の支援を受けた経緯があり、“彼”には無二の信頼を寄せていたのだ。 『いや、それを破壊した者の事だ。お前の神姫、確かロウ、と言ったな』 「ええまあ。ってロウがどうかしたんですか?」 『そのロウが、犯人の神姫を破壊した』 「へ!? ロウが!? そういえば庭に何か居たとか・・・でも何も無かったしなぁ・・・」 『それは私が回収した。犯人を追跡する途中で、その現場を目撃したんだ。どうもお前の家に盗みに入る所を、ロウが阻止したらしい』 「うちに盗みに? 本当に入ってたのかよ・・・」 『問題は其処じゃない。その神姫が、“自分の同類である神姫を何の躊躇いもなく破壊した”と言う事だ』 「・・・どういう、事ですか? 大体ロウはそんな凶暴な訳ないし・・・」 『その神姫は、“神姫を認識していない”。認識していなければただの人形と同じように“壊せる”。それどころか下手をすれば人間にも危害を加える可能性がある』 「う、嘘でしょ!?」 思わず甲は画面にかぶりつく。 『その神姫は、論理プロテクトが外れている可能性がある。いや・・適応されなくなった、とでも言った方が正しいか。確かその神姫は、自分の事を“男”と思っていると言っていたのだったな?』 「変な話だと思うけど、別にいっかと思ってたんですが」 『・・・普通はもっと怪しむがな。ともかく、そいつにお前は「留守中の家を守れ」と言ったのだったな』 「ええまあ、犬だし、昼間うちは蒼とロウしかいないから、家を守るのはお前の役目だって言ったけども確か」 『つまりはその“家を守る”為なら誰を傷つけても何とも思わないという事だ』 「そんな! そんな事、出来る訳・・・」 『“人間”ならば家族を守る為になりふり構わず、なんて事は普通だろう? いや、もっと残酷な手段であろうと日常茶飯事ではないか? “G・L”に感染しているとすれば、そんな事も有り得るんだろうな』 「へ? “G・L”って何のことで?」 『後で話す。まずは確認してからだ。今からその神姫に会う』 「ロウに会うって・・・」 『お前の家が近いと判ったからな、もう家の近くに来ている。もうすぐ・・・』 「もうすぐ・・・ 来たわね」 塀の上を歩いて来る影を見つけ、アニーはボイスチャットを一旦保留する。【玉座】を操作して、緩い速度で、その影へと近づく。 「ガッコってとこ、おもしろそーだな、カンナもいるし。もっといたかったけど、でもカンナがかえれっていうし・・・」 「はあい、あなたがロウ君ね」 「? あんただれだ? ロウとおんなじか? おんなじみたいなにおいがする」 「・・ふうん、自覚もあるんだ。それにジャミング無しでも“2次感染”もしない、本物ね、“G・L”だわ」 「だから、あんただれ?」 「ああ、ごめんなさい。あたしはアニーちゃんって言うのよ。あなたに大事な事を教えに来たのよ」 「え!! それってセンセってやつか! ガッコでいろんなことおしえてくれるひと!」 「先生? まあ、そうとも言えるかもね」 「やったー! これでおれもガッコにかよえる~!!」 「え!? いや、そういう事じゃないんだけど・・・」 「そうすれば、ずっとカンナといっしょだ!」 彼女、いや彼の名はロウ。それは「狼」ではなく、「浪」でもなく、「桜」でもなく、「Law」でもなければ、「Low」でもない。「ろー」、それはただ家族の為にある名。 ・・・“男”としての誇りに満ちた名。 “女性”を失い、同族を握り潰し、そして己が身すら省みる術を知らない。だが、家族があり、誇りがあり、・・・そして“愛するもの”が居る。 その“心”の何処が、劣ると言えるか? その心の何処が、狂っていると言えるだろうか? 答えを出せる“人間”は居ない。 ―第1章 狂犬 終― 目次へ